FUKUSHIMAいのちの最前線
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566日本医事新報 №4593〈2012.5.5〉「連載第6回 福島リポート」掲載子供たちの未来を守るために福島県立医大器官制御外科 鈴木 眞一*小児甲状腺検査の実情*すずき しんいち 1983年福島県立医科大卒。2010年6月より同大器官制御外科教授。2011年3月より福島県災害医療調整医監も兼務。専門は甲状腺・副甲状腺、副腎。福島県「県民健康管理調査」の一つである「甲状腺検査」の中心を担う。 今回の東京電力福島第一原発の事故では、現時点で、広島・長崎原爆の際に晩発性の発がんリスクが上昇したとされる100〜200mSv以上の高い外部被曝線量は一般住民において想定されていない。事故直後から飲料水、原乳、その他の食品とも厳格に規制されたこともあり、チェルノブイリ原発事故で甲状腺癌が発症したとされる100mSvを超える内部被曝線量も考えられない。 東電福島第一原発事故はINES(国際原子力・放射線事象評価尺度)でチェルノブイリと同じ「レベル7」とされたが、チェルノブイリのような水蒸気爆発は起こらなかったため、環境中の放射能汚染はチェルノブイリの約10分の1〜7分の1といわれている。また、3月12〜24日までのSPEEDIの試算で、1歳児の甲状腺の等価線量が100mSvを超える可能性がある地域の子供たち1080人に対し、簡易法の甲状腺スクリーニング検査を行った結果、いずれもスクリーニングレベルを超えるものはなかったことが報告されている1)。 このような状況から、現時点では広島、長崎、チェルノブイリのような甲状腺癌の発症は考えにくい。しかし保護者の中に、子供の将来の発癌リスクの増加、特に甲状腺癌発症を懸念する声は少なくない。したがって、今後甲状腺癌の増加がないことを証明するには、最も侵襲の少ない超音波検査によるスクリーニングを行うことが必要だと考えられた。 しかし、今まで国内では小児甲状腺結節に対する大規模な疫学的調査は施行されておらず、スクリーニングを始めると当然、進行の緩徐な甲状腺腫瘍が小さいうちに早く見つかる、いわゆるスクリーニングバイアスが生じる可能性がある。放射線の影響による甲状腺癌の発症は、チェルノブイリでも事故後4〜5年後だ。そのため、チェルノブリを上回る線量が想定されていない福島で、これより早期にスクリーニングを施行することで、放射線事故と関連のない甲状腺疾患が発見されることを認識していただき、今後、長きにわたり甲状腺癌発生の増加の有無を検証するための礎とすることとなった。 福島県は面積が広く、海岸に面する浜通り、人口の多い平野部が拡がる中通り、山間部の多い会津地方と地域性が多彩である。食事性ヨード摂取量の差も予想されるが、事故直後の空間線量にも大きな差があった。したがって単に甲状腺検査を施行するだけではなく、県民健康管理調査によって得られる個々の推定被曝線量との比較が重要となる。詳細調査としての甲状腺検査 対象者は1992年4月2日〜2011年4月1日に生ま 2011年3月11日14時46分、東日本にM9.0という国内観測史上最大の規模の大地震が発生し、大津波が東日本沿岸を襲った。東京電力福島第一原発ではすべての電源機能を喪失し、冷却機能を失った原子炉で爆発等が起き、大量の放射性物質が大気中に放出された。 こうした事態を受け福島県では、昨年5月より県民健康管理調査を実施している。その詳細調査の一つとして、原発事故時に0歳から18歳であった福島県の子供たちを対象に甲状腺の超音波検査を生涯にわたり行うこととなった。本稿ではその実情を報告する。なぜいま甲状腺検査が必要なのか

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