FUKUSHIMAいのちの最前線
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564 「基本調査」とは,全県民を対象に原発事故後,空間線量がもっとも高かった時期における外部被ばく線量の推計などを行うため,震災後の4ヵ月間の行動記録を中心に問診票による郵送調査を実施した。各自の行動記録と空間線量情報を吟味し,放射線医学総合研究所が開発した解析ソフトからmSv/4ヵ月の積算線量の推定が可能となった。 〈途中経過〉 2012年1月31日現在で約205万人に対して基本調査問診票が発送され,約43万人から回答を得た(回収率21%)。比較的線量が高いことが予想された先行実施地区(川俣町山木屋地区,浪江町,飯舘村)の2万9千人からは,1万5千人(52%)の回答を得ている。2月20日に10,468人のデータを解析公表した。 放射線業務従事経験者以外の9,747人について,全体の99.3%が10mSv未満であった。また,最高値は23.0mSvであった。「これにより放射線による健康被害は考えにくい」状況と評価しているが,今後も被ばく線量低減に向けた努力と健康管理が求められる。順次解析結果は個人宛に返送されている。 2)詳細調査 「詳細調査」では,①甲状腺検査,②健康診査,③こころの健康度・生活習慣に関する調査,④妊産婦に関する調査を行っている。①甲状腺検査 2011年3月11日時点で,おおむね18歳以下の福島県民を対象に,甲状腺超音波検査を実施した。現時点での放射線量などの状況から考えて,健康影響はきわめて少ないと考えられるが,チェルノブイリ原発事故後に放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児甲状腺癌が報告されている。このため,事故後に国によって3月24〜30日,福島県内の小児1,080人を対象に甲状腺被ばく検査が行われた。もっとも高かった1人が毎時0.1μSv,99%の小児が0.04μSv以下と低いレベルの甲状腺内部披ばくであった。これによると甲状腺癌の増加はまずないと考えられる。しかしながら,さらに約36万人を対象に,現時点での甲状腺の状況を把握し,子どもたちの健康を長期間見守るため,2011年10月より甲状腺超音波検査を実施している。 〈途中経過〉 2012年2月末までに避難区域の約2万5千人(対象となる地域の80%)が検査を受けている。大半は正常であるが,微小なしこり(結節性病変)や嚢胞などの良性所見が認められ,その中で詳細な二次検査(詳細な超音波検査,採血,尿検査,必要に応じて細胞診など)の判定は0.6%前後である。ここ数年間は標準化された診断精度管理とデータベース構築を基本に,現在の疾患の頻度と将来の健康管理の土台づくりとして重要な検査となる。②健康診査 すべての年齢区分について,放射線の影響のみならず,健康状態を把握し,生活習慣病の予防や癌などの疾病の早期発見,早期治療につなげていくことを主眼に検査項目を設定している。検査内容は,年齢区分によって異なるが,身長や体重の測定,血液検査など「特定健康診査」の検査項目が主な内容となる。現在,避難区域などの住民を中心に健康診査を進めており,今後基本調査で必要と認められた人への対応や,県外でも受診可能となるように準備を進めている。③こころの健康度・生活習慣に関する調査 チェルノブイリ原発事故の健康への長期的影響として,心身における変調が指摘されている。県民も,放射線への不安や避難生活などにより,精神的な苦痛を受けていることが考えられる。県民のこころの健康度や生活習慣を把握し,適切なケアを提供するため,「こころの健康度・生活習慣に関する調査」を実施した。避難区域などの住民および基本調査の結果必要と認められた方(約21万人)を対象に「現在のこころとからだの健康状態について」,「生活習慣について(食生活,睡眠,喫煙,飲酒,運動)」,「最近半年の行動について」,「東日本大震災の体験について」など,質問に答えていただくアンケート形式の調査を行った。相談・支援の必要があると判断された方には,臨床心理士などによる「こころの健康支援チーム」が電話相談などを行っている。また,こころの健康支援チームが放射線に関する相談を受け,当該専門医師などの対応が必要と判断された場合には,本学の教員による「放射線健康相談チーム」が対応している。また,放射線の影響による健康相談などのうち,直接診察が必要な場合には,専門医師などによる対応を検討することにしている。④妊産婦に関する調査 妊産婦の方を対象に,健康状態などを把握して今後の健康管理に役立てていただくとともに これから新しく福島県内で分娩を考えている方たちへ安心を提供し,今後の福島県内の産科・周産期医療の充実へつなげることを目的に「妊産婦に関する調査」を実施している。 県内各市町村において母子健康手帳を交付された方(約1万6千人)と県外市区町村から母子健康手帳を交付された方のうち,県内に転入または滞在して2011年3月11日以降に県内で妊婦健診を受診や分娩した方(いわゆる里帰りをした方)を対象に「震東日本大震災特別報告(福島発)―悲劇から奇跡へ3

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