FUKUSHIMAいのちの最前線
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538データを数十年にわたり住民にフィードバックしてゆくことは、世代を超えて県民の健康を見守る本学の責務である。また、医療の中枢機関としての本学の使命は、「安心して住める福島県」を取り戻すことにある。環境の除染と同時に、本学として「健康診断が充実し、超早期診断と最先端医療が身近にあり、日本一健康で長生きできる福島県」を目指す復興メッセージを発信すべく準備を進めている。 復興のために世界の英知を集める努力も必要である。以下のごとく人材、知識、技術を国内外から集める受け皿作りを矢継ぎ早に実行した:被ばく医療の世界トップである長崎大学・広島大学との大学間協定締結(2011年4月)、放射線影響研究機関協議会加盟(4月)、全県民健康管理調査開始(6月)、長崎大学・広島大学から副学長招聘(8月)、ナショナルセンターである放射線医学総合研究所および放射線影響研究所との協定締結(8月)、放射線医学県民健康管理センター設置(9月)、国際機関(世界保健機関:WHOなど)からの研究者による「放射線の健康影響に関する国際会議」開催(9月)、放射線医学関連2講座を本学医学部に新設(10月)。 さらに、2011年6月の政府復興会議提言および8月の福島県復興ビジョンに基づき、災害医療研修センター、超早期診断・最先端医療拠点形成、医療関連産業育成・雇用創出へ向けて、学内に復興本部会議を立ち上げて一歩一歩準備を進めている。福島の大地を踏みしめながら、力強い復興ビジョンを発信し、実行する「大学の知の力」がまさに必要とされている。 東日本大震災で、福島県は地震・津波・原発事故という人類史上初めての複合災害を受けた。悲劇は広範囲にわたり、長期に及ぶ。原発事故による環境汚染は、原子力という「プロメテウスの火」を手に入れた人類にとって、今後も地球上どこにでも起きる試練であり、まさに「パンドラの箱」から地上に放たれた厄災である。福島の復興は、人類が与えられた試練に如何に立ち向かうかという人類史的意味を持っている。いま我々が手にしているものはパンドラの箱にひとつ残された「希望」と英知、そして困難に挑戦し続ける意思のみである。 日本社会は右肩上がりの高度経済成長時代に終わりを告げ、人口減少・内需縮小・雇用不安を伴う新たな混迷の時代に突入する。日本社会も自らの意思と実行力で変革へ向けて大きく舵を切ることができるのであろうか? まさにこの時代の転換期に、高度経済成長の象徴である原子力発電所に天災が降りかかり、Fukushimaは新たな時代を自ら切り開く使命を与えられた。 原子力災害が人類の生み出した人災であるならば、この悲劇を乗り越え奇跡を生み出す力もまた、人類は自らの手にしているはずである。新時代を切り開く変革と復興のビジョンに基づいた実効的アクションプランを、次世代を担う若者たちと着実に実現させてゆく大学のマネジメント力と実行力こそが今まさに求められている。Fukushimaの変革と復興は、21世紀の日本と世界を占う試金石である。本学は今、Fukushima復興の拠点として開学以来最大の正念場を迎えている。最後に 震災直後は多くの大学関係者から「来年度の入学者があるのか?」と真顔で心配された。2012年度入学志願者は増加が予想され(1月現在)、卒後臨床研修後の専門医研修志願者は例年どおり50名を超えた。組織の社会貢献には組織自体の永続性が不可欠であり、次世代の若者たちの参加が欠かせない。この混乱期こそ大学機能のまさしく根幹である「教育」の力が見直されるべきであり、世代を超えた復興へのベクトルを束ねてゆく「大学全体にみなぎる気風」と長期的戦略が必要である。Fukushima復興の人類史的意義:悲劇を奇跡に福島県立医科大学:東日本大震災・原発事故のリスクマネジメント、そして復興への展望

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