FUKUSHIMAいのちの最前線
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426スタッフの連携で乗り越えた地震・放射能汚染の二重被害装置のみを手動で運転した。 地震後の気象状況は安定せず、寒気接近のため夜間時には外気温が零度まで低下し、降雪にも見舞われた。飼育室内も10℃にまで低下する時間帯もみられた。マウスやラットの低体温対策として滅菌済み巣材(綿やキムタオル等)をすべての飼育ケージに投入して巣作りを促し、体温低下をくい止めた(写真13)。 飼育室の温度・湿度・室圧が制御不能の状態であったことから、マウスやラットのSPF水準の破綻が懸念された。そこで、飼育室への入室回数を減らすことに努めた。 飼育室全室の温度・湿度・室圧は、監視装置(SAVIC-2000)によって1時間ごとに記録され、24時間ごとの日報として自動的に印字されている。飼育室内の環境状況の確認のため、地震発生前から空調復帰までの約1月分の監視データについてとりまとめた(図3)。 震災2か月後に実施した、おとり動物による微生物モニタリング検査の結果、所定のすべての項目(表4)において問題点は検出されなかった。さらに、3か月後に全飼育室の実験者から動物の提供を受けてモニタリング検査を行った。免疫不全のSCIDマウス5匹について、盲腸内容物のエッグヨーク寒天培地培養検査の結果もブドウ球菌(S. aureus)は検出されなかった。危惧していたSPFレベルの破綻もどうにか回避できたと判断し、実験者へも報告した。 施設利用者へは3月12日に実験動物研究施設長名で、掲示およびメール配信によって施設内被害状況の報告と今後の対応(給水停止にともなうトイレ使用禁止、節電、不要動物の処分、その他)に関連して協力要請を行った。不要動物の処分について一応の要請を出したものの、施設管理者の立場としては、研究者の貴重な研究資産である実験動物の処分はできる限り控えたいと常々考えていた。 ガソリン不足によるマイカー通勤の困難、断水や節電等のため、自宅待機指示(各所属の判断で最小人数の職員のみ出勤)がだされた。そのうえ、すべての研究室においても機器類落下による散乱や破損等があり、それらの処理等で、実験者の動物施設への入室回数は否応なしに減少した。そのような状況から、前述の不要動物の処分協力要請に応じることができた実験者は、数名にすぎなかった。通常の運営に復帰した4月1日時点でのマウスの処分ケージ図3 SPF飼育室内(上のグラフ)の温度・湿度・室圧の推移(3月中の記録)。下のグラフは外気の温度と湿度表4 微生物モニタリング検査項目マウスラット培養検査Salmonella spp.○○Citrobacter rodentium○○Corynebactrium kutscheri○○Pasteurella pneumotropica○○Pseudomonas aeruginosa○○Bordetella bronchiseptica○血清抗体検査HVJ (Sendai virus)○○MHV (Mouse hepatitis virus)○SDAV○Mycoplasma plumonis○○Tyzzer (Clostridum piliforme)○○Hanta virus○○Lymphocytic choriomeningtis virus○Ectromelia virus○鏡検Giardia muris○○Spironucleus muris○○Syphacia spp○○Aspiculuris tetraptera○Ectoparasite○○PCR検査Helicobacter hepaticus○利用者への状況報告と協力要請

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