FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線401手術室緊急事態発生時の対応:東日本大震災の経験─手術室マネージメント─難訓練の実施状況については,福本ら1)が報告している。2008年に岐阜県内の31の病院の手術室を対象に行った検討によると,手術室災害対策マニュアルを作成しているのは11施設であり,ない施設は19施設,回答なしが1施設であった。当院では,マニュアルは作成されていたが,内容は基本的な項目のみであった。一方,上農ら2)は地震災害発生時の対応として,患者の保護と,術野の清潔の維持,医療機器の転倒,移動の防止を第一に挙げ,医療ガスや電気供給などの状況を把握したうえで,手術のトリアージを行うとしている。今回の大震災では,幸いなことに停電はしなかったため非常電源とはならず,医療ガスの供給にも問題はなく,麻酔器,生体監視モニター,そのほかの医療機器の破損もなかった。このような状況が幸いしたこともあって,今回われわれは上農らの指摘どおりに迅速に対応でき,1例の傷害も起こさなかった。本院のマニュアルには,最低限の必要事項は網羅されていたと思われるが,指示系統,安全点検,物品や電源,医療ガスの供給,避難方法など,より詳細な項目のマニュアル化が必要である。現実面では,もし停電していたら,非常電源がどの程度の時間作動できるのかを考慮しておく必要がある。当院では,48時間程度と比較的長く作動するが,短い場合はその時間内に手術を終了させ,術後の人工呼吸などもできるだけ避けたいので,速やかに覚醒させる必要がある。 また当院では,液体酸素のタンクや中央配管の空気圧縮装置が無事で,配管の損傷などもなかったため,大きな混乱は起こらなかったが,非常時の酸素ボンベや室内用エアコンプレッサーなどの準備も確認しておく必要がある。 また,上述の福本らの報告では,手術室災害訓練を行っているのは31施設中6施設であり,行っていない施設は24施設,無回答が1施設であった。花木ら3)や伊藤ら4)は,災害を想定した定期的な避難訓練は,災害に対する意識の向上につながると述べ,訓練の重要性を指摘している。当院では,前述したように毎年1回災害避難訓練を行っていた。たとえ火災訓練とはいえ外科系医師も参加して訓練を行っていたことが,防災意識を向上させ,今回の東日本大震災で1名のけが人も出さずに安全に管理できた一因ではないかと思われる。 さらに,今回の震災発生直後より,手術部から麻酔科が全権限を委任され,それぞれの科との交渉ができた。“区切りのいいところで中止してほしい”という申し出に対しては,各科からまったく反対意見はなかった。麻酔科医1名の責任者のもとでその命令系統に従ってすべての手術が終了し,患者を安全に管理し,手術部から退出させることができた。これは,指揮命令系統を確立したことも重要であるが,麻酔科医をはじめ,外科系の医師,手術部スタッフ,CEらの震災への対応の認識が一致していたことも大きいと思われた。 逆にいえば,それほど今回の地震の規模が大きく,予断を許さない状況だったのであろう。表3 震災翌日からの麻酔科管理の手術3/12麻酔科管理2件津波による下腿挫創でデブリードマン大腿骨骨折で観血的整復術3/13麻酔科管理2件大腿骨転子部骨折で観血的骨接合術大腿骨頸部骨折で観血的骨接合術3/14麻酔科管理5件帝王切開 2件頸部膿瘍で切開排膿,気管切開大腿骨頸部骨折で人工骨頭挿入術大腿骨頸部骨折で手術予定も,導入前に意識消失し中止3/15麻酔科管理4件帝王切開 2件地震による左前腕骨折,コンパートメント症候群で減張切開術津波による多発外傷,創部感染でデブリードマン3/16麻酔科管理1件地震による左前腕骨折,コンパートメント症候群で減張切開術(再手術)3/17麻酔科管理2件精索捻転で精巣固定術大腿骨頸部骨折で観血的骨接合術(3/14中止になった患者)3/18麻酔科管理5件帝王切開3件肺塞栓で開胸肺塞栓除去術足壊疽で足切断術3/19麻酔科管理3件イレウスでイレウス解除術有半結腸切除術後縫合不全で開腹ドレナージ,人工肛門造設術胎便栓症候群で人工肛門造設術3/21麻酔科管理2件帝王切開創離開で閉腹術

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