FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線399手術室緊急事態発生時の対応:東日本大震災の経験─手術室マネージメント─ガスの供給にも問題はなかった。また,麻酔器にアーム固定されている生体監視モニターのディスプレイや麻酔器(図4),電気メス類の機器は麻酔科医や手術部のスタッフなどの対処によって転倒,落下はしていなかった。しかし,手術部内の空調機能は,大きな地震を感知したことにより自動停止していた。 また,上記マニュアルどおりすべての手術室で操作が中断されていたが,手術室内部の物品や機械類は,思ったほど散乱していなかった(図5)。当院手術部は10階建ての病棟に隣接している3階建て建物の最上階であるが,建物は耐震構造であったため,ただちに避難する必要はないと考えられた。しかし,未曾有の巨大地震であったため,建物の倒壊による避難が必要になる可能性もあったために,看護師らに各部屋の前にストレッチャーとバッグバルブマスクを準備させ,手術室の入り口のドアと各部屋のドアは開放した(図6)。移動用モニターとしては,麻酔中に通常使用している携帯可能なMASIMO社のRadical−7TMを麻酔器から取り外す予定であった。また,看護師に通常の循環作動薬などに加えて,鎮静薬のミダゾラムと鎮痛薬としてフェンタニルなどの麻薬類を患者ごとに準備させた。 震災当時,当院手術部では表1に示すような手術が行われていた。 上水道は供給が断たれたが,貯水タンクの中の容量は通常の1日分は十分にあった。しかし,手術部内の空調機能は停止しており,このままでは室温は低下する一方であった。また,停電がなく非常電源とはならなかったが,余震が頻回であったため,原則として手術を終了することが可能かどうかを症例ごとに主治医と相談のうえ,方針を検討した。問題となりそうな症例は,1号室の胸腹部大動脈瘤の患者と10号室の食道異物の患者,12号室の十二指腸穿表1 震災時の手術部の状況手術室年齢性別診断予定術式震災後の対応170歳男性胸腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術のための腹部分枝バイパス術左腎動脈のみのバイパスで閉腹267歳女性子宮脱,膀胱瘤メッシュによる子宮脱手術続行し終了973歳男性左上顎歯肉癌左頸部郭清術、左上顎部分切除術途中で中止109歳女性食道異物,ピエール・ロバン症候群食道閉鎖術後内視鏡的食道異物摘出術麻酔導入のみで中止1172歳女性水頭症,鞍上部髄膜腫術後腰椎-腹腔シャント術脊髄ドレナージのみで中止1275歳女性腹腔内膿瘍,ERCPによる十二指腸穿孔の開腹ドレナージ術後再開腹ドレナージ術開腹のみで中止そのほか,3名の患者が手術部内にいた。2名は局所麻酔の患者で,1名は移送中であった。表2 各患者の手術部からの移動手術室術式手術部退出時刻退出先病棟帰室時刻病棟への移動方法1左腎動脈のみのバイパスで閉腹16:42ICU3/129:50ベッド2メッシュによる子宮脱修復15:453階病棟(手術部と同じ階)15:50ストレッチャー4(局麻)植皮終了15:41ICU→看護学部18:30車いす6(局麻)白内障手術終了15:43ICU→看護学部18:00担架で6階病棟7(局麻)白内障手術終了14:44手術部受付前ICU→看護学部18:00担架で6階病棟9頸部郭清の途中で中止15:55ICU18:00担架で5階病棟10麻酔導入のみで中止15:44ICU→7階病棟16:00だっこ11脊髄ドレナージのみで中止15:41ICU18:00担架で7階病棟12開腹のみで中止15:44ICU19:35担架で9階病棟

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