FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線397 当院の手術部災害対策マニュアルは,日本手術医学会が2008年に出したガイドラインに準拠した形で,当院手術部が2010年に作成した(図1)。火災対策,停電対策,断水対策,手術室における地震対策,災害時の交通網の障害対策,大規模災害対策,近隣地区での大規模災害に対する対策,列車事故などへの対策で8項目からなる。当院では,2007年から毎年12月の末に各科の医師も参加して,手術部主催の災害時避難訓練を行ってきたが,この避難訓練は地震を想定したものではなかった。また,今回の東日本大震災までは,実際にこのマニュアルを活用すべき災害はなかった。 手術室における地震対策の要点は,以下の3項目である(図2)。 ①落下物,倒壊物による外傷を回避し,また職員や患者の転倒,転落によるリスクを軽減して,人の安全を守る。 ②手術操作は中断しなければならないが,緊急の避難はしないことが望ましい。 ③開始されていない手術はすべて中止する。 このマニュアルには,“ちなみに阪神淡路大震災,新潟県中越地震,新潟県中越沖地震の発生曜日,時間はそれぞれ火曜日午前5時46分,土曜日午後5時56分,祝日月曜日午前10時13分であり,それぞれのマグニチュード,震度はM7.3,震度7,M6.8,震度7,M6.8,震度6強であった。いずれもほとんど手術は行われておらず,近代では日本で手術中に大規模な地震が発生した経験は無いことになる”と,記載されている。今回の地震は,まさに日本人が初体験した出来事であった。 2011年3月11日の14時46分に発生した東日本大震災の最大震度は,宮城県の栗原市での震度7で,福島県では浜通りと中通りの一部で震度6強,当院がある福島市では震度5強を記録した(図3)。その後も大きな余震が頻回に起こった。地震発生当時,当院手術部の12の手術室のうち,表1に示すように局所麻酔の患者も含めて9名の患者が入室していた。著者は,附属病院に隣接する臨床研究棟の2階にいたが,地震後すぐに同じ階にあたる附属病院3階の手術部へと向かった。著者は地震発生後3分で手術部に到着したが,すでに手術部内の対策本部として手術部入り口にある受付に,手術部副部長(心臓血管外科出身の専従医師)以下,手術部看護師長,当日の麻酔科スーパーバイザーが集合していた。入室患者に被害がないことは,すでに確認されていた。麻酔第61巻3号(克誠堂出版株式会社)掲載手術室緊急事態発生時の対応:東日本大震災の経験─手術室マネージメント─福島県立医科大学附属病院麻酔・疼痛緩和科 五十洲 剛村川 雅洋麻酔科とチーム医療1 当院の手術部災害対策 マニュアルと防災訓練2 東日本大震災と当院手術 部の対応はじめに 2011年3月11日14時46分,三陸沖を震源とするマグニチュード9の巨大地震,東日本大震災が発生し,津波により多くの人の命が奪われた。これに加えて,福島第一原子力発電所の事故により福島県は甚大な被害を受けた。そして今も,震災の被害と,原発事故の収束のめども立っていない状態が続いている。今回の巨大地震は,阪神淡路大震災と異なり,平日の日中の時間帯に起こったため,当院で手術が行われていた。 本項では,まず当院の手術部災害対策マニュアルについて述べ,その後に今回の震災時における当院でのそのときの対応などについて報告する。緊急事態発生時の手術室における対応の参考になれば幸いである。Key words:手術室,災害対策マニュアル,東日本大震災

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