FUKUSHIMAいのちの最前線
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3801.方法 福島県精神医学会に入会している精神科病院または総合病院精神科のうち,平成23年5月24日時点で地震・津波・原発事故により病院機能を全喪失している病院を除外した30病院へのアンケート調査。2.対象 平成23年3月12日~5月11日の期間に上記福島県内精神科病棟に新たに入院した患者。病院被災により他院へ転院した患者については対象から除外とした。3.調査内容 患者の年齢,性別,震災から入院までの日数,自宅被災の有無,震災前の精神科病名,入院時状態像,入院時精神科病名,入院形態,入院前の患者状況(自宅在住,避難所,その他の3択),原発事故による放射線被ばくへの恐れが入院に関わっていたと考えられる程度を主治医の判断で評価(1.関連あり 2.関連あるかもしれない 3.関連あるとはいえない,の3段階評価)。複数回答があった項目については自由記載による情報から主要であると考えられる項目に振り分けを行い,判断がつかない場合にはその他の項目に振り分けた。なお,精神科病名にはICD-1011)を用い,入院時状態像は大熊輝雄著現代臨床精神医学7)中に示されている14の状態像または症候群から選択した。 上記アンケートを30施設に送付し,26施設から回答を得た。入院時診断名不明などのアンケート記入不備,被災した精神科病棟からの転院,身体科よりの転科,施設からの転院を除く610人の新入院につ臨床精神医学 第40巻第11号掲載原子力発電所事故後の福島県における精神科新入院の状況和田 明 國井 泰人 松本 純弥 板垣俊太郎三浦 至 増子 博文 矢部 博興 丹羽 真一フクシマの教訓─放射能被ばく事故に学ぶこころのケア2 対象と方法3 結果1 はじめに 2011年3月11日,東日本大震災が発生した。われわれの住む福島県は地震,津波で甚大な被害を受けただけではなく,3月12日に発生した福島第一原子力発電所の水素爆発事故による放射能汚染により,現在に至るまで被災し続けている。Karioらが阪神・淡路大震災後に白衣高血圧がストレスにより増悪したと報告している4,5)通り,大地震・津波を含めた自然災害だけでも大きなストレスとなりうるが,原子力災害は放射能汚染という目に見えないものを相手にするため,持続的な強い不安やストレスに暴露され続けるという特徴がある。今までに人間の生活区域が放射能による危機に暴露されたのは広島,長崎の原爆投下,アメリカのスリーマイル島事故,旧ソ連のチェルノブイリ発電所事故原子力災害のみであり,このような状況下での精神疾患患者の病状変化の報告はほとんどない。チェルノブイリ事故に関連していくつかの報告2,3,6)があるものの,いずれも事故後10年あまりが経過したのちでのものであり,本稿のように事故直後からの状況を報告したものはない。本稿では原子力災害を含んだ大震災後の福島県内の精神科病棟への新入院患者の調査結果について概説しその特徴および放射線被ばくへの恐れの影響について考察したい。Key words:Fukushima nuclear disaster, radiation contamination, psychiatric symptoms, inpatient, manic stateThe characteristics of newly hospitalized patients in Fukushima prefecture after the Fukushima nuclear disaster WADA Akira, KUNII Yasuto, MATSUMOTO Jynya, ITAGAKI Shuntaro, MIURA Itaru, MASHIKO Hirobumi, YABE Hirooki and NIWA Shin-Ichi 福島県立医科大学神経精神医学講座〔〒960-1295 福島県福島市光が丘1〕

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