FUKUSHIMAいのちの最前線
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352 災害時の医療展開を考えるには,被災時に,被災地内外で,医療者がどのようなことができるのかを整理することが出発点となる。今,被災地で求められている医療は何か,今,われわれが提供できる医療の水準はどの程度のものかを行政側と共有することが重要となる。この観点から,本学では,発災直後から県災害対策本部医療・救護班に,DMATを含めた医師数人を常駐させ,共同して活動した。これらの医師は活動が円滑に行えるよう,福島県から災害医療コーディネーターに任命された。 さて,災害医療における情報伝達のあり方を考える際,重要な点は以下の6つである。①堅牢性:災害時でも破壊されない②安定性:通信需要の急増に耐えることができる③普遍性:広範囲に正確に発信可能④迅速性⑤易操作性:誰もが情報発信できる⑥双方向性 この条件を満たすツールが今回の災害時に十分機能していたか,否か? 残念ながら,「否」である。地震被害によって,県庁舎の一部が使用不可能になり,対策本部は県庁舎に隣接する自治会館に急遽設置された。そのため,発災直後は固定電話回線も不十分であった。その後,NTTにより臨時の優先回線が設置され,本学との連絡は確保されたが,被害の大きい沿岸地域の病院はもとより,県内基幹病院との回線はなお不安定なままであった。 一方,インターネット,携帯電話などのモバイルツールの普及率,バッテリー持続力などは格段の進歩を遂げたが,地震・津波被害がより甚大であった地域では堅牢性,安定性を保つことができなかった。地震,津波被害によって,中継基地局が破損し,通話エリアが狭小化したため,通話需要の増加にも対応できなかった。その状況は,通信キャリアによっても差異があり,当時,福島第一原発から約3㎞地点にあった関連病院に勤務し,緊急避難命令により,患者とともに避難を続けていた医師とは,連絡がとりにくかった。当事者からすれば,情報の不足,途絶などの理由により,支援要請ができなかったということになる。つまり,災害時に被害報告が上がってこないということは,それだけ被害が甚大であるはじめに 震災当初,通信手段が機能しないなか,当教室の医師の安否を確認することすら容易ではなかった。当教室においては震災当日にメーリングリストを立ち上げ,同日24時より福島県立医科大学(以下,本学)で行われた第1回震災対策会議の内容から速やかに発信を開始した。この関連病院を含めたメーリングリストによる情報共有が果たした役割は大きかった。医療拠点としての大学に集約される情報を各関連施設へ送ることと同時に,各関連病院の人的・物質的損害の程度,医療提供の可否などの情報を速やかに集約することを可能とした。とくに東京電力福島第一原子力発電所(以下,福島第一原発)事放による放射線に対する不安は,情報の欠如によるところが大きい。このメーリングリストは派遣中の医師が最新の情報を得ることを可能とし,不安解消のツールともなった。 当教室の医師たちも大学,県庁,関連病院,それぞれの場所と立場で,この震災と向き合うこととなる。その中でも,当教室より県災害対策本部医療・救護班に派遣され県との橋渡しを行った医師,また,福島第一原発より5㎞圏内の医療機関に派遣中であり,避難地域の拡大により患者を伴っての移動を余儀なくされた若手医師たちの果たした役割が大きかった。本稿では災害時のそれぞれの立場からの生々しい現場の状況を報告する。消化器外科 2012年4月 第35巻第4号 通巻第434号(へるす出版)掲載災害医療における情報伝達のあり方福島県立医科大学器官制御外科学主任教授 竹之下 誠一同教室 藤田 正太郎 小船戸 康英 福島 俊彦東日本大震災特別報告(福島発)―悲劇から奇跡へ2災害医療コーディネーターの立場から

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