FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線351福島県立医科大学の役割と医療対応津波・原子力災害による被災者でもあった。経営母体が被災したストレスから,その業務に支障をきたしつつあったが,一方で,彼らの身体・精神・放射線影響に関するケアに関する法的公的支援システムは欠如していた。 各県から集結した救急隊も放射線被ばくの状況をまったく把握しておらず,サーベイランスにてガイガーカウンターが示す値に一喜一憂している状況であった。 当院緊急被ばく医療班では,被災消防の訪問を行い,彼らの身体・心・放射線不安が危機的状況であることを知り,介入を行った。 当初は身体・心・放射線被ばく検査のすべてを被ばく医療班で行っていたが,当院心身医療科心のケアチームが介入し,最終的には放射線健康相談に特化した支援を行った。 ホールボディーカウンター検査,甲状腺シンチレーションカウンターと個人線量計値などを計測評価し,面談による説明と健康相談に応じ,アンケート結果はおおむね好評であった。 公務危機介入者の放射線健康相談は,当院のほかには業務を担当する施設が存在しないため,被災消防のほか,警察,公務で高度の内部・外部被ばくの可能性を有する団体からの健康相談を受け付け,対応した。4.一般住民への支援 原発作業員,公務危機介入者と比較して,一般住民の被ばくは低線量で慢性的であることが特徴である。「地震」,「津波」,「原子力」に加え「情報」災害により「安全」ばかりか「安心」までが揺らぎつつある現在,原発事故の行方が今後の日本を左右することは間違いないと思われる。「安全」だけでなく「安心」をも提供できる施設として貢献すべきである。 現在,約200万人の福島県民全体を対象に健康調査を実施し,長期間にわたって放射線被ばくの影響を調査している。とくに,子供たちの健康を生涯にわたって見守るため,震災時18歳以下の約36万人の甲状腺超音波検査を,20歳までは2年ごと,それ以降は5年ごとに継続して実施する予定である。この詳細は第3回で述べさせていただく。 東日本大震災で,福島は地震・津波・原発事故という人類史上初めての複合災害を受けた。福島の復興は単なる復旧ではなく,人類が与えられた試練にいかに立ち向かうかという人類史的意味をもっている。「Fukushimaの復興」は,21世紀の日本と世界を占う試金石ともいえる。本学は,「突然の変動性に対応できる医療」を構築しつつ,まさに「災害に強い持続的社会の拠点としての大学」,「地域復興の拠点としての大学」としての真価を問われるという,開学以来最大の正念場を迎えている。「福島の悲劇を福島の奇跡にする」ことを天命として,総力戦を展開し,継続しなければならない。おわりに

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