FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線347三浦 必要な情報が必要な人に届かなかったこともあり,事前のネットワークづくりが必要だと思いました.インターネットが使えるようになってから,日本小児アレルギー学会を中心にメーリングリスト「allergysupport」を構築して,専門医や支援団体,患者の会などからも情報提供してもらいました.同学会では子どものアレルギー相談も受け付けています. さらに,「災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット」(日本語版・英語版)も作成しました(図2).パンフレットは,喘息,アトピー性皮膚炎,食物アレルギーの3疾患について,子どもの世話をされる方々,周囲の方々,行政の方々に対するお願いなどを各1ページにまとめてあり,日本小児アレルギー学会のウェブサイト(http://www.iscb.net/JSPACI/oshirase/110517.html)からも1ページ単位でダウンロードできます.教育委員会などを通じて避難所に配ってもらい,それを患者さんが読んで,診療した他科の医師にもみせてくれたりしたようです.棟方 こういう大規模災害なので致し方ないですが,アレルギー患者さんへの細かいケアとなるとなかなか行政では取り上げてもらえないので,先生がおっしゃった患者の会や関連学会などとネットワークを作っておくほうが,実際にはうまく機能するかもしれませんね.三浦 私もそのように思いました.さらに,難しいとは思うのですが,事前に行政に啓発することも大事ではないでしょうか.アレルギー患者さんは環境の悪化に弱く,けむりやほこり,ペットなどへの注意喚起や,吸入器が必要な場合の電源の優先的使用なども必要なのですが,携帯電話の充電が優先されてしまう状況も起こりました.行政に動いてもらうためには,やはり事前に打ち合わせておく必要があると思いました.棟方 停電により吸入できなかった患者さんは多かったですね.三浦 はい.自動車のシガーソケットや乾電池で動く吸入器の場合は,きちんと使えていたようです.また,先ほど山内先生も言われましたが,お子さんやお母さんでも薬の内容がわからないという人がいるので,お薬手帳またはコピーは必要ですね.棟方 山内先生が最初におっしゃったように,common diseaseに対する診療マニュアルのような基本的な対応をまとめたものも,あるといいですね.山内 2〜3行でいいので,薬剤に添付するなどすれば,DMATの薬剤をより活用できるのではないでしょうか.棟方 学会発表にもありましたが,支援物資が地域の拠点までは届くのですが,それを分別してうまく配布する手段がなくて困りました.当院では小児科の先生方が物資をもって避難所を回ってくれました. 当院ではまた,最初の1ヵ月間ほど,専門領域別に24時間対応の電話相談窓口を設置しました.各避難所にも周知して,電話をもらって状態が悪いと判断すれば,近隣病院に連絡して入院させてもらったり,当院に来てもらったりするシステムなのですが,相談件数はかなりありました.山内 相談窓口を一定期間設置するのもいいかもしれませんね.災害時のマニュアルを作っておくべきかもしれません.三浦 初動のアクションプランもあればいいと思っています、有事に備えて避難用バッグを用意し,その中にお薬手帳のコピーや長期管理薬,吸入器,マスクなどを入れておいて,それを持って逃げましょう,というような(表1).山内 今回のように迫ってくる津波から逃げるような場合には,荷物をもち出せなくてもいいよう,インターネット上に治療記録などの情報を引き出せるようなシステムがあれば便利だと思います.着の身着のままで逃げてきても,自分の名前やIDを口頭で伝えればデータが入手できるようなシステムは,今の技術ならできるような気がします.三浦 プライバシーを守りつつ,病歴や治療歴の記録が閲覧できればいいですね.棟方 被災地は,瓦礫は撤去したものの,いまだ今後についての指針がなかなか立たない状況にあります.これからも先生方のお力が必要な場面がいくつも出てくると思いますので,ご活躍に期待して座談会を終えたいと思います.ありがとうございました.表1 気管支喘息患者への災害対策(三浦先生案)◦長期管理薬と発作時の薬の備蓄◦マスク◦吸入器使用の場合,バッテリー,シガーソケット,電池で電源をとれるもの.◦希望者にはpMDI+スペーサーやドライパウダーの吸入指導を早期にする.気管支喘息患者に対して

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