FUKUSHIMAいのちの最前線
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344International Review of Asthma & COPD 2012 vol.14 №1掲載司会:福島県立医科大学医学部呼吸器内科学講座教授 棟方 充先生コメンテーター:岩手医科大学医学部内科学講座呼吸器・アレルギー・膠原病内科分野教授 山内 広平先生宮城県立こども病院総合診療科部長 三浦 克志先生(発言順)東日本大震災特別鼎談「震災と喘息」 2011年3月11日に発生した東日本大震災において,喘息患者さんはどのような問題に直面したのか.また,今後どのような対策が必要かを,被災地で診療を続けてこられた先生方にお話しいただいた.棟方 本日は,東日本大震災,なかでも喘息患者さんを中心に,最も被害の大きかった岩手,宮城,福島の各県の震災時の状況と現状をお話しいただき,今後の災害対策への提言をいただきたいと思います.山内 震災による呼吸器疾患の当院への入院患者の推移をみると,震災当日は溺水,いわゆる津波肺がほとんどで,翌日からは在宅酸素の患者さん,それから喘息とCOPDの増悪も出始めました(図1).入院が必要なほどですから,結構重症です.翌週から肺炎が増え始め,どんどん増加してきました.避難所では栄養状態も不良で,うがいもできず,狭いところに大勢の人が暮らしていましたので,高齢者を中心にインフルエンザが流行し,その結果,肺炎が急増した時期がありました.喘息とCOPDの増悪は,症例数は多くはありませんでしたが,3〜4ヵ月続きました.棟方 肺炎は多かったですね.山内 はい.喘息では,津波の被害を受けた沿岸部で,患者さんが毎日使っていた薬剤を持って避難できなかったために,増悪をきたした例が少なくありませんでした.避難所生活が始まってからは,少しずつ薬剤が行き渡るようになったのですが,薬歴のわからない患者さんがコントロール不良になって避難所から来院されたり,避難時の負荷や避難所の環境による増悪例もありました.高齢者では心的外傷後ストレス障害(PTSD)のような状態に陥って,病気を治そうとする意欲を失いアドヒアランスが低下した例もあると聞いています. 避難所などには災害派遣医療チーム(DMAT)が入ってくださって,非常に助かりました.ただ,DMATには吸入ステロイド薬(ICS)や長時間作用型β2刺激薬(LABA)の配合剤も用意されていたようですが,適切に使われなかったため増悪を招いた例がありました.ですから,common diseaseについては専門医でなくてもわかりやすい指針のようなものが必要ではないかと感じました.棟方 福島県ではそれほどでもなかったのですが,岩手県ではインフルエンザが流行したそうですね.山内 そうです.宮古病院内では,医療関係者の発症率も3月〜4月初めに急激に増えました.インフルエンザをきっかけに喘息が増悪したり,寒さから発作を起こされた患者さんもいました. 瓦礫処理が始まってからは,例えば喘息様症状の既往のない70歳女性が,津波の被害を受けた自宅家屋の掃除をしていて堆積して乾いた汚泥からの粉塵を吸い,その晩に喘鳴が出現しました.ICSなどの標準的な治療で軽快しています.こういった症状は,自衛隊員や警察官など瓦礫処理にあたった方々の中岩手県における呼吸器疾患の経時的推移左から山内先生、棟方先生、三浦先生

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