FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線337 2011年3月11日に発生したM9.0の東日本大震災は歴史上4番目で我が国においては過去に例のない規模であった.福島県では地震,津波被害に加えて,東京電力福島第一原子力発電所事故による放射線汚染,被曝への恐怖・回避心理から発生したであろう経済的損失・精神的重圧が加わり,人類が過去に経験したことのない災害の様相を呈している. 2011年6月3日現在,県災害対策本部によれば,死者1,576,行方不明者404,重症者84,軽傷者152人である.都市型災害と異なり,本震災は太平洋沿岸部(浜通り)の津波による溺死者が圧倒的に多かったことが分かる. 避難者は98,555人で,うち86,283は原発事故による避難指示,1,472は避難勧告,10,159が自主避難である.実に89%が原発事故による避難者である(警察庁調査;6月13日).避難先は県内23,880(一次避難6,033,二次避難17,847),県外35,972(全国37都道府県)であり,避難が長距離,かつ,広域に起こったことがわかる. 福島県は全国第3の広域県で約200万人が居住する.主たる被災地となった相双(相馬・双葉)管内に約20万,いわき管内に約34万人が住み,老年人口は65歳超が25~26%,75歳超が13~15%である(福島県統計;2010年9月).世界的に高齢化の先端地要 約 福島の大震災の特異性は,壊滅的な地震や津波による浜通りの市町村へのダメージに加えて,危険度とその範囲が判然としないままに避難や生活の糧を破棄するよう指示が追加されていった広域な放射線汚染,被曝への恐怖から惹起されたであろう国内外からの被災地・福島を回避する心理が膨らませた経済的損失や精神的重圧にあるように思う. 小雪の舞う早春に突然起こった未曾有の体験に対して,地方行政,地域の医療機関は懸命な対応を続けた.急性期には水道,電気,ガス,通信,移動手段(ガソリン)が整っていることが職務の前提であったことを痛感した.DMAT,被曝医療チームが地域の医療チームに加わり活動した.深刻化していく原発復旧作業の中,県内避難所2万5千人への巡回,20~30kmの屋内退避地域の在宅患者への支援などを行った. 専門職には想定外などあり得ないこと,日々の有機的な組織・人と人との連携が変化への対応力となること,分かりやすい説明能力が安心感を生むことを皆が学んだように思う.医療と原子力事業の根幹に横たわる安全管理には共通する要素が多い.プロフェッショナルとしての使命の省察が個人・組織のレベルで予断なくなされてきたか,厳しく点検されることは,長年に及ぶ放射線汚染という重荷を背負いながら生きていかなければならない被災地域への大きな責務であるように思う.日本老年医学会雑誌 第48巻 第5号 掲載原発事故が地域にもたらしたもの~福島の大震災の特異性~石川 和信第53回日本老年医学会学術集会記録〈パネルディスカッション4:高齢者災害時医療~避難所からいかに高齢者を守るか~〉被災地からの報告Key words:東日本大震災,福島,原発事故,大量避難,プロフェッショナリズムK.Ishikawa:福島県立医科大学 医療人育成・支援センター,同 附属病院 循環器内科はじめに東日本大震災による福島県の被害震災前の福島県浜通りの医療状況

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