FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線331一人当たりの検案数も12日10件,13日14件,14日9件となるが,実際には12日に地元警察医1名で48件,13日にも同医師1名で47件の検案が行われており,その負担は極限に近いと考えられる。 ちなみに,1日30件以上の検案を行った延べ医師は7名,内訳は震災翌日の12日にいわき地区で48件1名,南相馬で60件及び33件各1名,13日に相馬で60件1名,南相馬で48件1名,いわき地区で47件1名,14日相馬で38件1名であり,いずれも警察医であった。こうして見ると,警察の検視体制が整っていれば,検案に慣れた医師ならば,“適正”か否かは別として,1日60件の検案も対応可能ということである。 なお,震災当日は3地域での検案数は少ないことから,混乱状態のまま過ぎたことが窺われる。同様のことは警戒区域でも言え,3月11日は検案1件で終わっている。 今回の震災による死者・行方不明者のうち,2012年2月10日までに1596体の検案結果が集計されており,男女各2名及び性別不明の1名を除き,1591体(99.7%)の身元が判明している。この身元判明率の高さには驚かされる。 福島県における身元判明率の高さの大きな理由は,歯科医師による身元確認作業である。当研究分担者が訪れた3月19日の浜通り北部(相馬署管内・南相馬署管内),及び,4月10日に始まる警戒区域の検案でも,既に検案全例の歯科所見が歯科医師2人によるダブルチェックで記録されていた。福島県警の記録によれば,3月14日から全例の歯科所見が記録されている。検案場所の医師数は余裕が見られたこともあったが,検案数が多くても少なくても検案場所に配置された歯科医師は2名だけであり,医師の負担以上に負担の多い作業に従事していただいた成果である。 もう一つの理由はDNA検査の進歩による。福島県では震災直後の早期発見遺体で且つ身元が容易に確認できた遺体からでさえ,DNA検査を視野に入れて試料を採取したことが結果的に役立っている。先の阪神淡路大地震の経験を踏まえて日本法医学会は被災死者全員のDNA検査を提言している。その提言の意図は,遺体損壊が高度な時に前後して発見される部分遺体の身元確認に役立つためである。今回の震災でも部分遺体の身元確認作業には同じことが指摘できる。しかし,それ以上に重要なことは家族全員が被災者となった折に,顔貌などにより身元が充分識別できる場合でもDNA試料を残しておくことで,後に別の場所で発見された親族被災者の身元確認に役立つという意味である。建物崩壊による図4 福島県4地域の検案数と医師数の日次推移(3−4月)図4.3 いわき市図4.1 相馬市、新地町図4.4 避難区域図4.2 南相馬市

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