FUKUSHIMAいのちの最前線
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326福島県の被災状況と検案医体制の推移に関する調査なった。その結果,福島県警察医会,及び,福島県立医科大学医学部・看護学部基礎医学系医師(教授)からの志願による検案組織が構築され,警戒区域から収容された遺体も含めて検案が行われた。このような状況下に構築された検案組織は初めてであり,検案を志願した医師の検案経験を記録に留める必要があると考えた。そこで,宮城県の検案医師に対して行われたアンケート調査内容の一部を利用させていただきアンケート調査を行った。(倫理面での配慮) アンケート調査は文書にて目的を説明し,厚生労働科学特別研究事業の一環として行われていること,回答は任意・無記名であり,回答をもって同意とみなすことを明示して実施した。C.結果および考察Ⅰ.3月11日から11月までの検案体制 3月11日から11月までの福島県における震災検案数と延べ検案医師教の月次推移を表1および図1.1にまとめた。検案数は宮城県・岩手県とは比べようもなく少ないが,福島県では過去に経験のない膨大な数である。この間の全検案数は1596件,3月1061件(66.5%),4月419件(26.3%)で,合わせて92.7%の検案が2か月間で行われている。一方,延べ検案医師総数は386名で,3月209名(54.1%),4月110名(28.5%),合わせて82.6%を占めている。2か月間での占める割合は検案数の方が多く,被災後の早い時期は遺体発見が容易であったため,医師一人当たりの検案数が多かったことを示している。県全体の平均を見ると,医師一人当たり4.1件検案したことになり,月次で見ると,3月は医師一人当たり5.1体,4月は3.8体を検案したことになる。次いで,5月は医師一人当たり1.9体,6月は1.2体となり,7月~11月は,1体となる。また,6月以降は月次の遺体収容数が極端に少なくなり,医師派遣の必要性はなくなる。事実,福島県警察と法医学会はそのように判断し,協議して6月7日に医師派遣を終了している。6月までに法医学会から派遣された延べ医師数は240人にも達し,6月までに検案をした延べ医師数379人に占める割合は63.3%となる。 なお,福島県では既述のごとく,原発事故により警戒区域内の捜索は約1月遅れて開始されており,原発事故がなければ3月・4月の2か月間の検案総数はもう少し増えたはずである。このように集計されたデータは長期の検案体制を整備をする上で参考にはなるが,震災直後の混乱時期における多数遺体の検案体制整備および運用にはあまり役立たない。結局,福島県全体で見ると,宮城県・岩手県に較べ医師一人当たりの検案数は多くなかったことを示す程度である。 次に,震災発生直後から4月末までの福島県全体の検案数及び検案医師数を日次推移としてグラフ化してみた(図1.2)。検案数は3月12日206件をピークに,13日182件,14日92件と続き,15日は12件と突然激減する。これは原発事故により,捜索が打ち切られたためである。当教室からも教室員が南相馬市へ検案に行っていたが,検案1件を終えただけで引き揚げさせられている。翌16日警戒区域以外は捜索が再開され,3月下旬まで40~20件以上の検案が行われているが,4月初旬の検案数は10件台へ漸減した。4月10日警戒区域の捜索が開始され,18日までの検案数は10~30件と漸増したが,その後1日当たりの検案数は1桁台が多くなる。一方,医師数の日次推移をみると,3月11日13名,12日14名,13日12名,14日8名で検案が行われている。15日の医師数は前述のごとく,原発事故による捜索打ち切りで収容遺体数は少なく,検案施設に派遣された医師数の実態は反映されていない。16日以後は日本法医学会からの第一期派遣医師10名が加わったことで,18日図1 福島県全域の検案数と検案医師数の推移図1.1 福島県全域(月次推移)図1.2 福島県全域(日次推移)

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