FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線325厚生労働科学研究補助金(厚生労働科学特別研究事業)分担研究報告書掲載研究分担者 福島県立医科大学法医学講座教授 平岩 幸一厚生労働科学研究補助金 厚生労働科学特別研究事業激甚災害時における死体検案体制の整備および運用に関する研究平成23年度 総括・分担研究報告書Ⅰ研究代表者 青木 康博 平成24(2012)年5月福島県の被災状況と検案医体制の推移に関する調査A.研究目的 本研究は,東日本大震災後の福島県における被災状況と検案医の活動状況を経時的に概観し,また地域ごとの変化を比較検討し,その当時の福島県立医科大学(以下,福島医大)法医学教室の状況,更に,東京電力福島第一原子力発電所事故(以下,原発事故)により指定された警戒区域から収容される遺体の検案を志願した福島医大検案医へのアンケートを通じて得られた意見等を踏まえて,今後の大規模災害時にも通じる検案体制の整備並びに運用のための資料を提供することにある。なお,福島県へは日本法医学会ならびにその会員から多大な検案支援を頂いたが,これに関しては学会としてまとめを行うため,ここでは除外している。B.研究方法 2011年3月11日から11月までの検案体制については,福島県警察本部が2012年2月10日までにとりまとめた資料をもとに検討した。日本法医学会から福島県へ派遣された検案医師については日本法医学会災害時死体検案支援対策本部及び福島県警察本部がとりまとめた記録をもとに検討した。なお,記録の取り扱いに際して,個人が特定されるような内容は本報告書では扱っていないことを前もって付記しておく。 集計にあたっては,先行調査で既に宮城県についての報告書が東北大学大学院医学系研究科法医学分野舟山眞人教授によってまとめられており,宮城県との比較が容易となるように,舟山眞人教授の了解を得て,集計方法・図表化を踏襲した。 一方,福島県では原発事故により警戒区域あるいは計画的避難区域が指定されたという特殊事情がある。警戒区域の遺体捜索は約1月遅れて開始されたが,法医学会から派遣される若手医師への遺体検案依頼は躊躇せざるを得なかった。そこで,警戒区域から収容された遺体の検案を行うためには福島県独自の検案組織を構築する必要があると判断し,福島県警察は福島県医師会・福島県警察医会,及び福島県立医科大学へ検案医師の派遣を依頼することに研究要旨 今回の東日本大震災による被災者数は想像を超えるものとなった。福島県でも震災直後に被災者数を予想できた人はいまい。大規模災害において遺体を検案する最大の目的は身元の確認である。そして,福島県では殆どすべての遺体の身元が検視・検案によって確認できた。そこで,大震災における被災者の発見状況とともに検案医体制がどのように構築され,推移したかを調査することは,今後も起こりうる大規模災害時の検案体制を整備し,運用する上で極めて有用な情報となる。福島県の死者・行方不明者数は,他の宮城・岩手2県と比べるとはるかに少なかったものの,津波による東京電力福島第一原子力発電所事故(原発事故)のため,警戒区域や計画的避難区域が指定され,これらの区域と震災・津波による被災地が重なるという特殊な事情が生じた。これが検案体制の構築にも大きな影響を与えている。本研究では,遅れて始まった警戒区域の検案体制の推移も含めて詳細な記録に残すことも目的としている。 調査の結果,震災当日の混乱,翌日からの多数遺体の検案,続く急激な検案数の低下,4月の警戒区域の捜索開始による若干の検案数増加,その後懸命な捜索により瓦礫の下等から稀に発見される遺体の時折の検案へと推移した。震災翌日・翌々日に60件を検案した地元警察医には頭の下がる思いであるが,警察側の検視体制が整い,ライフラインを含めた検視環境が良好であれば,この程度までの検案は可能であることを示唆している。福島県の被災地検案では他県と比べて検案数が少なかったことに加え,電気・水道のライフラインの遮断がなかったために検案の基本が順守され,情報の伝達手段も残されていたことが,最終的に高い身元確認率につながったと考えられる。

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