FUKUSHIMAいのちの最前線
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第4章患者救済に奔走した活動記録〈論文・研究発表〉FUKUSHIMA いのちの最前線323供給を受けても足りるはずはありません。職員に院内の水洗トイレの使用を禁止するなど、必要な方策をとりましたが、貯水タンクは毎日じりじりと減りつづけました。水が止まるのは、医療機関にとって致命的です。 当院も、「本日午前中にさらに給水車が来なければ、撤退以外に道はない」ところまで、追い詰められました。水と電気、いわゆるライフラインは2重3重のラインを確保しておかなければ、いざというときに災害拠点病院は任が果たせない。水は必要があれば井戸の確保も有用でしょう。福原 入院患者、被災者の受け入れはどうされたのですか。菊地 地震が起こり、当院はまず、極力ベッドを空けました。被災者の受け入れのためです。報じられていると思いますが、今回の地震では津波で多くの方が亡くなりましたが、災害救急で「赤タッグ」がつく、つまり重篤なけが人の数は、実はとても少なかった。 ですが、原発で水素爆発が起こり、四方2キロメートルのところにある2つの病院(合計約500床)に避難指示が出されました。これらの入院患者さんを含めて可能な限りいったん当院で受け入れました。当院でトリアージし、適切な施設に送り出したのですが、ロビー、体育館、看護学部施設もすべて使い、ベッドをセットアップしてなんとかまかなえました。福原 災害拠点病院には、そのような機能も求められるのですね。菊地 そこにも大きな教訓がありました。療養型医療機関の患者さんがカルテを持ち出す余裕もない状況下で運び込まれる。中には認知機能を患っている方もいらっしゃるので、自分の飲んでいる薬はおろか名前さえ定かではありません。あまりの患者さんの多さと人手に余裕がないので記録も残せず、送り出したあとの追跡もできませんでした。 療養型医療機関、介護施設が被災する可能性もある。そう考えれば、医療と介護を一体化した登録システムは、なくてはならないのではないかと思いました。福原 先生のお話に通底するのは、組織論だと感じます。菊地先生は医療者であると同時に組織の長として、組織を機能させるための努力をつづけられ、しかも、見事にそれをやり遂げられた。菊地 今回、明らかに事態の収拾に有効であった手法を披露しましょう。非常時においては、「拙速がもっとも大事」です。部下、スタッフに対し「判断できない情報は、とにかく上にあげろ」と指示するのです。「非常時なのだから、判断が間違っていようがかまわない」ともつけ加えるべきでしょう。パニック状況でもっとも怖いのは、意思決定権者に情報が届かないことなのです。具体的には、全国から寄せられてくる支援打診などの情報に対して、受託者がどうすればいいか判断できず、混乱の中でファイルのいちばん下に埋もれていた事実もあります。 平時に「任せるから自分で判断しろ」と指導しているような事象も、非常時には「拙速でかまわないから、とにかくあげろ」と指示する。きわめて重要なポイントです。福原 情報が大事なのは、論を待たないでしょう。情報の共有化と意思の統一もさぞかしたいへんであったと推察します。菊地 情報収集と、関係者との共有が必要ですが、そのうえでの決断も求められます。マルクス療養型医療機関、介護施設が被災したときの悲惨非常時に明晰な意思決定者がいなければ崩壊一時受け入れの患者を搬送するために待機する救急車(2011年3月21日撮影)

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