FUKUSHIMAいのちの最前線
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312東日本大震災を考える 1.病院機能維持の条件 私自身が病院機能の命綱と考えており,再検討が必要だと感じたのはライフラインの確保である。まず,水である。一般に,一日1床に1トンの水が必要とされている。対策として,井戸の確保も一つの選択肢である。次に,薬剤,燃料(重油,ガソリン),食料の備蓄が必要である。近年の効率的運営のツケがこの大災害では足枷となった。3つ目は,委託の条件の吟味である。委託は,派遣元の意向で引き揚げてしまうからである。給食,ドクターヘリ等が検討の対象になる。最後に,電気である。本院は問題が発生しなかったが,原発事故のような大災害の発生を考えると,2系統,3系統のバックアップ体制が必要である。 2.次代に伝える教訓 ここでは,今回の想像だにできなかった惨禍を経験して,医療人に限らず次の世代に伝えたいことを挙げる(表5)。 今回の大災害に対処しながら,以下に述べる箴言が脳裡に浮かんだ。これは大災害に限らず,有事に共通なことなので,次世代に伝えたい事項としてここに記す。 まず,人は困難に遭遇したとき,それを悪いことと捉えるか,逆に良い機会と捉えるかで取り組み方が全く変わってしまうことである。 第2に,有事には正論や筋論は邪魔になるだけで,当事者が動きやすいように周囲は支援すべきである。そのことの危うさを指摘している箴言はいくつⅥ.次世代に伝える教訓表5 次代に伝える教訓●困難に遭遇したとき,その困難を「悪いこと」と捉えず,「自分を鍛える機会」と考え,克服すべき�『摂理について』セネカ⇨誇りと自負を持って挑戦して欲しい!●1)世の中がヒステリックになると,言葉尻だけをとらえて攻撃してくる輩(やから)がいる2)“正義”を背に他を難ずる者の言は,いつの世も空しい�(狩野博幸)3)警鐘を鳴らす奴は,いつも安全なところにいる�『ドン・キホーテ』ミゲル・デ・セルバンテス⇨勇気とは決して恐怖の不在ではなく,恐怖を感じつつも威厳をもって前進する能力�『立証責任』スコット・トゥロー⇨人生ではどうすることもできない困難に直面することがあります。そのようなときに,泣き叫んでみてもどうしようもない,ただただ,じっと歯を食いしばり,耐えながら乗り越えていくしかない。�(伊藤謙介)⇨人は人生が配ってくれたカードでやっていくもので,カードが悪いと愚痴をこぼすものではない●科学が確実な因果関係を設定できない領域では,科学的合理性を超えた配慮が必要�村上陽一郎�讀賣新聞 2011年8月1日⇩安全と安心の統合が必要●トップは,貴方の働き(存在)に感謝している(知っている) というメッセージを明確に当事者達に伝えること = “知られざるを憂えず”(孔子)は,有事では役に立たない●猿の後知恵的な非難は,混乱の原因(有事は平時とは別!)9.11:アメリカ上空の全旅客機に着陸命令⇨英断と高く評価 ⇨後日「誰が命令した?」と非難3.11:直ちに,「県民(約200万)の30年にわたり健康を守る」の声明⇨県民の落ち着き確保 ⇨後日,「不可能」,「否定的な結果しかでない」の非難●賢い人に従う能力が大衆には必要危機管理能力を持っている賢い人 ⇔ 長谷川慶太郎これに従う賢い大衆 ⇩危機回避,軽微な損害

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