FUKUSHIMAいのちの最前線
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特別インタビューFUKUSHIMA いのちの最前線277悲劇から奇跡へ──一つ一つ、説明願います。菊地 我々が死に絶え、風化し、震災を知らない人たちが増えてくれば当然、「なんでこのような調査をいつまでも続けているの」といわれることになるでしょう。属人的なシステムでは限界があるのです。長期的に県民の健康を追跡するためのシステムを作っておかなければならないのです。予算的な裏付けも国民全体のコンセンサスにしなければなりません。同じ日本人なら、他人を思いやる気持ちを持たなければならない、ということです。──しかし、現実的には全県民の調査は厳しい状況になる、と懸念されます。菊地 生涯をかけて取り組みますが、それでも無理という状況になれば原発に近い地域、線量の高い人たちに絞ってもやり続けなければなりません。──甲状腺の検査も重要ですね。菊地 その通りです。これは、やり切るべきことなのです。ただ甲状腺の検査については問題点が2つあります。甲状腺専門の医師の数は、平時は各県に数人いればいいものだったんです。それに子供の甲状腺の検査は、医者なら誰でもできるものではないのです。つまり、甲状腺の専門医師を急いで養成しなければならないのです。2つ目は“診断精度”の問題です。専門家になればなるほど厳しい診断をするため信頼度が高くなります。そのためにも専門的な医師の養成は急務なのです。──メンタルケアの問題も深刻ですね。菊地 これが非常に難しい問題でしょう。人は未来に希望を持てることに“幸せ”を感じるものですが、過去に思いを馳せることも“幸せ”なんです。ところが、震災、原発事故の被災者は過去を断ち切られ、未来も見えない。今は不安ばかりという状態に置かれています。“頭は怒っていて体は動かない”という避難生活、これは悲劇です。今のサイエンスでは「動かないでストレスを溜め込むという生活の積み重ね」が、認知症・ガン・寿命などに大きな影響を及ぼすことが明らかになっています。“安全”と“安心”の確保のために──甲状腺が専門の医師は、全国から応援が来ていると聞いていますが。菊地 確かに全国から応援をもらっています。しかし、現状はとても大変な状況です。36万人の子どもに対応するのですから人員が大幅に足りないのです。現場へ行ってもらったら実情がすぐに分かります。『甲状腺チーム』だけでなく『心のケアチーム』『県民健康管理調査チーム』などあらゆる部門で早急に人員の手当てをしなければならないのです。──ところで、福島県の子どもの数は、震災後この1年半の間に、激減してしまいました。菊地 母親たちが子どもを連れて“安全な場所”を求めて逃げ出すのは当然のことなのです。この問題は医療だけの視点で考えるのは難しい話です。“安全”と“安心”は違います。“安全”は科学、“安心”はコストと心の問題だからです。安心の確保に対するコストまでを国や県が出すべきもの、というと際限なく要求だけが続くことになってしまいます。それでは、いつまで経っても解決に至らないと思うのです。解決策の第一歩は、お母さんたちが「福島に戻ってい

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