FUKUSHIMAいのちの最前線
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第3章放射能との闘いFUKUSHIMA いのちの最前線263福島県医師会報第74巻 第5号(24.5)甲状腺検査における検査結果と今後の課題や方向性について公立大学法人福島県立医科大学器官制御外科学講座福島県災害医療調整医監放射線医学県民健康管理センター、臨床部門(甲状腺検査担当)鈴木 眞一 昨年3月11日に発生した東日本大震災により引き起こされた東京電力福島第一原発事故によって、大量の放射性物質が大気中に放出された。昨年5月、福島県では県民健康管理調査を実施することを決めた。本調査には基本調査とともに4つの詳細調査があり、その一つとして事故当時に概ね0歳から18歳であった福島県の子供たちを対象に甲状腺の超音波検査を生涯にわたり行うこととなった。すでに4万人弱に実施した現在、一次検査の結果通知とともに二次検査も実施が開始されている。医師会の先生方の日常診療の際においても本検査に関する説明や助言を求められることが予想される。本事業につきご理解をいただき、情報の一元化を目的に解説をする。 一次検査は、震災時に概ね18歳以下だった福島県内居住者(県外避難者を含む)の約36万人を対象に行う。方法は、甲状腺超音波検査を行い、5.1㎜以上の結節(充実性部分を伴う嚢胞も結節として取り扱う)や20.1㎜以上の嚢胞があれば二次検査となる。それ以外の方は2年半後に再び一次検査を受けていただく。その後は20歳までは2年ごと、それ以降は5年ごとと繰り返し、生涯にわたり行う予定となっている。 二次検査は、要精査として、再度精密な超音波診断を行う。日本乳腺甲状腺超音波会議、甲状腺用語診断基準委員会による診断の進め方1)および日本超音波医学会編、甲状腺結節(腫瘤)超音波診断基準2)に基づき、穿刺吸引細胞診を行うか決める。また全員に血中FT4、FT3、TSH、TgAb、TPOAb、Tgおよび尿中ヨード測定を実施する。それぞれの結果から、次回検診まで経過観察、二次検査施設での再検査ないし経過観察さらには手術等の治療などに分かれる。 甲状腺癌の94-5%は乳頭癌と濾胞癌からなる分化癌であり、10年生存率が95-6%と固形癌で最も予後が良好な癌である。また、未分化癌は、2%ときわめて少ない頻度ではあるが、平均生存期間が6ヶ月と固形癌の中でも最も予後不良な癌である3)4)。小児甲状腺癌に関しては、明らかな疫学調査はなく、頻度は一般的に年間100万人から200万人に一人が罹患するとされている。第29回の甲状腺外科検討会での集計結果からは年間甲状腺癌のうち、19歳以下は0.1%、14歳以下では0.03%と極めて少ない4)。小児甲状腺癌は成人と比較して長期の生命予後は良好である。そのなかで小児乳頭癌は診断時にすでにリンパ節転移や肺転移などの遠隔転移を認め、進行した癌であるようにみえても、適切な治療によって良好な長期の生命予後が得られる5)。甲状腺癌とくに分化癌は年齢によって予後が異なり、年齢が高くなるほど予後不良である。また、UICCによるTNM分類では、甲状腺分化癌は45歳以上の病期分類はⅠ期からⅣ期まであるが、45歳未満は遠隔転移があればⅡ期、それ以外はすべてⅠ期とはじめから予後良好なものとして区別されている3)。さらに、分化癌とは異なって極めて予後不良で急激に増大する未分化癌は50歳未満には稀とされている。このような観点から小児甲状腺癌は予後良好なものと認識されている。甲状腺癌には放射線誘発によるものが存在することも知られている。 小児を対象に甲状腺を検査する場合、CTやシンチグラフィは無用な放射線被ばくを増加させる可能性があり、運用は限定的にすべきである。その点、超音波検査は無侵襲であり小児のスクリーニング検査に適しているといえる。甲状腺検査概要はじめに甲状腺癌の特徴、とくに小児甲状腺癌甲状腺超音波検査の特徴

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