FUKUSHIMAいのちの最前線
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第3章放射能との闘いFUKUSHIMA いのちの最前線261従来の枠にとらわられない看護業務 福島医大被ばく医療班は,①原発作業員のための緊急被ばく医療,②危機介入者(消防・警察・自衛隊)の心身の健康管理,③住民健康のためのリスクコミュニケーション,を責務の三本柱であると認識している。事態はすでに「緊急」から「日常」被ばく医療に移行しつつあり,過去の原子力災害の経験から,少なくとも今後30年以上は何らかの医療体制の継続が必要だと予測している。 そのような現実の中で,被ばく医療看護業務においては,従来の枠にとらわれない柔軟な対応が求められている。具体的には,シミュレーションなどの「備えの看護」とともに,現場や事業所へ出向いての医療活動・健康管理活動を行う「攻めの看護」,さらには住民へのリスクコミュニケーション,自身の放射線知識拡充などの「共に考える看護」など,従来の来院患者に対応する業務に縛られず,今求められていることを自ら考え,業務開拓する看護師が求められている。当院緊急被ばく医療看護の指導者である長崎大学の情熱は,確実に福島の看護師に受け継がれつつある。多忙な日常業務の中で,前例のない業務を模索し続ける当院看護スタッフにエールを送りたい。展 望 2011年10月1日付けで放射線健康管理学講座が当院に新設され,大津留晶先生が初代教授として就任した。放射線科学講座と救急医療学講座と共に,三者がタッグを組んで,福島県における被ばく医療の基盤づくりを行っている。 とあるシンポジウムで,「原発立地県中,最も被ばく医療体制が希薄な自治体で原子力災害が発生したことが問題の一つだ」とのご意見を承った。ごもっともなことであり反省しているが,思うに震災前の被ばく医療問題の本質は,「事業所・行政・中央」と「医療・地方」とのコミュニケーションの欠落ではなかったのだろうか。コミュニケーションというのはあくまで双方向のものである。今後も「事業所・行政・中央」が,「医療・地方」の日常医療すらままならない実情を顧みず,一方的に災害対策・災害対応を求めるならば,それはコミュニケーションの欠落であり,震災前となんら状況は変わらないものと考える。 少なくとも現場レベルにおいては,原子力事業所を含めた関係各所が原子力災害の早期収束という共通目標に向かって一致団結して業務に当たっている。われわれが必要としたものは,多業種がやむを得ず集まった烏合の衆「グループ」ではなく,専門家集団とコーディネーターの単なる集団である「タスクフォース」でもなく,実際の緊急被ばく医療現場で臨機応変に対応できる「チーム」だった。これまで述べてきた当院被ばく医療体制確立のための努力,それはまさに震災前にわれわれに欠落していたコミュニケーションとエデュケーションの確立に向けてもがいてきた軌跡にほかならない。そして,今この瞬間も多くの未解決問題の中でもがいているのが実情である。読者の皆さまには,「事業所・行政・中央と医療・地方とのコミュニケーション」「すべての医療者における被ばく医療教育:エデュケーション」の再強化をお勧めしたい。私どもが皆さまにお送りできる最も重要なメッセージだからである。終わりに,「チーム」にご参加いただいている皆さま,ご指導,ご支援,応援いただいている多くの皆さまに誌面をお借りして深く感謝申し上げたい。図5 福島医大病院敷地内の空間線量率当院屋外地上高1mにて電離箱(451B-DE-SI型電離箱サーベイメーター®, FLUKE-Biomedical社製)で計測した。2011年3月15日夜間から放射線空間線量率が急上昇している。(計測・資料提供:大葉隆技師)

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