FUKUSHIMAいのちの最前線
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260福島原発事故における福島医大病院緊急被ばく医療班の対応れる。発災当初は原発事故関連情報が,最近は生活環境情報がテーマとなっており,参加者へのリスクコミュニケーションを兼ねる。学内独自の環境放射線計測(図5) 発災早期の情報混乱時に環境評価のよりどころになったのが,院内技師による環境放射線計測値情報であった。2時間ごとの空間線量変化のほか,ダストサンプリングによる核種分析,土壌調査などが行われ,公式情報が公開されない間の羅針盤となった。今後強化すべきこと緊急被ばく医療ネットワークの再構築 震災前に指定されていた県内6つの初期被ばく医療機関のうち,当初4病院が警戒区域ないしは緊急時避難区域に指定された。現在はいわき市内の2病院が初期披ばく医療機関として原発内で発生した患者の診療に貢献しているが,日常診療すら不十分な現状では,発災前に想定した緊急被ばく医療ネットワークの運用がなされていない。現在,原発内の救急医療室には被ばく医療の専門家が,Jヴィレッジの医療室には産業医科大学・労災病院機構・東京電力病院・日本救急医学会などの先生方が交代で勤務し,被ばく医療ネットワークを支えてくださっている。4月以降,原発内作業環境の管理が向上して,表面汚染や急性放射線症候群を伴う傷病者は原発内で発生していないことは不幸中の幸いである。緊急被ばく医療教育の拡充 知識と経験の欠如が恐怖と苦痛をもたらすことを,身をもって体験した。被ばく医療の専門家からは,「当初想定した初期被ばく医療機関とは,いわゆる直近医療機関であり,換言すればすべての医療機関で初期被ばく医療が行われ得ることを想定してきた」とうかがった。すぐには原子力施設を撤去することができない日本の現状を考えた場合に,今後の対策として,被ばく医療をより一般的なものにし,すべての医療者が被ばく医療の知識を有する状況を実現しないと,原子力災害時の初期対応に苦労することが予想される。現実問題として,原子力災害が現在進行している福島県内においても,被ばく医療に関する知識の欠如に危機感を持つ医療者は多いとはいえない。 現在,緊急被ばく医療の成人教育は,公益財団法人原子力安全研究協会による「緊急被ばく医療講座」と独立行政法人放射線医学総合研究所による「NIRS被ばく医療セミナー」の二本立てで行われており,経験・人格ともに優れた方々が教育・指導に当たっておられる。しかし,二権分立による利点を差し引いても,一つの原子力災害医療に対して二つの教育機関が存在することに,現場では多少の混乱が見られる。今後のコミュニケーションをお願い申し上げたい。図4 被ばく患者診療手順 が被ばく医療で新たに加わった診療手順。

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