FUKUSHIMAいのちの最前線
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256福島県立医科大学における緊急被ばく医療気を配り,健診を行うこととした。この健診は消防だけでなく,警察や公務で警戒区域に立ち入る必要のある人びとに範囲を広げて現在も続いている。 この間,マスコミなどではさまざまな人たちから,さまざまな発言が飛び出していた。「放射能が飛び散って危ない」「いやいまのレベルは安全だ」といった安全なのか危険なのかをめぐり,百家争鳴で混乱をきたしている状態であったことから,5月中旬から日本医学放射線学会の防護委員会が開催され,学会としての見解をまとめるにあたり,アドホック(臨時的・専門的)なメンバーとして加わった。その見解が『原子力災害に伴う放射線被ばくに関する基本的考え方』として,6月初めに公表された*6。 8月になると,汚染のある自治体からの問い合わせがあり,筆者の専門ではなかったが,地元にいる医師としての義務感から福島市と伊達市の相談を受けることとなり,その関係はいまでも続いている。その中で感じたことは,中央での考えは各自治体に伝わらず,ましてや住民に理解されるような情報が届くのは相当の時間と努力が必要ということである。 現状では原発サイトからのサイト外への放射能の飛散はないが,ふたたび放射能が飛散する可能性は高く,再飛散時の対応,安定ヨウ素剤使用の時期と服用の場所,飛散情報・屋内退避や避難指示の伝達方法をどのようにすべきかなど課題は多い。マニュアルなどの改訂とそれをもとにした訓練も必要であろう。とくに訓練すべき対象を広げることも重要と思われる。 今後は,原発作業者だけでなく,一般住民の被ばく汚染の問題も重要な課題となってくる。住民への情報提供と助言,被ばく不安低減のためのリスクコミュニケーション,外部被ばく線量評価(ガラスバッジなどによる)とその説明,内部披ばくに関する評価(WBCによる)の利用法と説明,心のケアの問題などの多くの課題が残されたままである。 このような経験から,医療従事者として必要と感じたことを率直かつ簡潔にまとめる。 ①マニュアルの作成と訓練をすることの重要性。マニュアルは不完全でも作成しておくこと,繰り返し訓練を行うこと,机上訓練,シミュレーションも大事で,計画は考えられる最大限まで想定すること ②災害の緊急時でも現場判断と中央(政府)の判断がお互いわかり,それをもとに意思決定してゆく連絡体制と指揮命令の訓練の必要性 ③現場での個々の判断については,現場でよいと思ったことを実行することの必要性 ④連絡はこないものとして個々の現場の判断を尊重すること。このためには訓練が重要で,非常時にはこのような態度で臨む必要がある ⑤医療従事者の一般的な放射線被ばくに関する教育の必要性と一般市民への放射線の知識の普及などを絶えず行うこと ⑥福島県立医科大学の課題として,緊急被ばく・汚染医療体制の再整備,安定ヨウ素剤の使用法の確立と補充および備蓄,放射性物質体内除去剤であるプルシアンブルー,キレート剤の備蓄,また,県民健康調査を補足する体制として,外部被ばく線量の評価(ガラスバッジなどによる)と説明の体制の整備,内部被ばく線量の評価(WBC)と説明の体制の整備 以上に加え,福島県内の医療体制の整備と改善,優秀な卒業生の育成と県内医師の確保,医療レベルの向上(均てん化の実行)と先進的な医療施設・設備の整備と導入なども必要であろう。魅力ある福島県立医科大学,福島県によみがえることを夢見ている。文 献今後の緊急被ばく医療の課題医療従事者として感じたことと希望*1 福島県保健福祉部,福島県緊急被ばく医療活動マニュアル(平成15年5月制定).*2 被ばく医療施設運営委員会マニュアル作成部会「福島県立医科大学医学部附属病院被ばく医療活動対応マニュアル」(平成14年5月8日制定).*3 青木芳朗,医学のあゆみ,239(10),973-976(2011).*4 神谷研二ら,医学のあゆみ,239(10),977-984(2011).*5 谷川攻一ら,日本救急医学会雑誌,22(9),782-791(2011).*6 日本医学放射線学会放射線防護委員会,原子力災害に伴う放射線被ばくに関する基本的考え方.http://www.radiology.jp/modules/news/articl.php?storyid=931*7 大津留晶,日本病院会雑誌,1112-1116(2011).*8 宍戸文男ら,Surgery Frontier,18(4),369-372(2011).

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