FUKUSHIMAいのちの最前線
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250東日本大震災と引き続く放射線被ばく問題について車いすやベッドにどうやって移動させてよいかわからないということであった.現実にはOJT(on the job training)で乗り切ったわけであるが,医学部教育では,患者の移送法について教えていないという事実が明らかになった.また,全国有数の原子力発電所をもつ県の医科大学でありながら,放射線被ばくに関する実践的な教育が全くなされていないことが明らかになった.今後,災害医療研修センターが基金事業として大学病院内に設置される予定である.今回のわれわれの経験をきちんと検証し,また,阪神・淡路大震災の経験を学び,学部教育や卒後教育の中で,医師だけでなく,医療に携わる人,ひろくは地域住民にも実践的な災害教育を行っていく必要がある.そして,災害に強い福島県,あるいは福島医大を目指したい. 福島において,東日本大震災を語る際には,放射線被ばくに関する問題を避けるわけにはいかない.特に今回の福島第一原発の問題は,低線量の長期被ばくである.その被ばくとは,外部被ばくと,食物を通じて体内に放射性物質が取り込まれることによって生じる内部被ばくに分けられる.現時点では,高線量の外部被ばくが健康に対してどのような影響を与えるかということは,広島・長崎の原子爆弾の経験から,ある程度わかっている.しかし,今回のような,内部被ばくを含めた低線量の長期被ばくによる健康障害が実際に起こるのかどうかは,今までの知見から類推するしか方法はない.次第に明らかになってきている実際の外部被ばくや内部被ばくの量からは,過去の知見と論理的,合理的にあわせて考えると,おそらくは長期的にも健康障害が生じることはないと考えられる.そうはいっても実際の被ばく問題には,放射線被ばくを恐れる本能的な感情とともに,事故さえなければ浴びる必要のない放射線を浴びているという現実が,住民感情に大きく影響している.福島県は向こう30年以上,202万人県民の健康追跡調査を行い,住民の健康を守るとともに,将来のために,福島の経験をエビデンスとして残す事業を開始した.住民が安心して生活を行っていくためには,健康を確実に守るという行動をするとともに,被ばくに関するデータを公表し,他の健康に関するリスクと比べてどの程度の影響があるかを明らかにする必要がある.特に被ばくに対する世間の混迷・困惑の大部分が,被ばくに関する数値の一人歩きに起因していると思われ,実際の健康への影響は,他のリスクと比較して相対的にどの程度のリスクがあるかを伝えることが重要であると考える. 東日本大震災とそれに引き続く放射線問題が,福島県の医療に与える影響は極めて大きい.全国的にみても,2008年と2010年を比較すると,人口10万人あたりの医療従事者は,全国平均は212.9人から219.0人へ増えているにもかかわらず,福島県は183.2人から182.6人へ減少している.減少を示した都道府県は,福島県を含めてわずか2県のみであった(参考文献・資料8).福島県の人口は,震災前は約202万人であったので,震災前ですら,全国平均と比べて医療機関に従事している医師は実数で735名ほど少なかった.震災後,福島県の調査によれば,2011年3月1日と12月1日の県内の138病院における病院勤務医師数の比較をすると,福島県全体で71名の減少であった.8月1日に比較して,24名減少してい東日本大震災と放射線問題が福島県の医療に与える影響放射線被ばくに関する問題表3 医療機関で働く医師数の変化(2011年3月1日との比較)福島県全体でみてみると、県内の138病院で震災前に比較して71名の医師が減少していた。医療圏2011年3月1日病院数常勤医師数(実数)常勤医師数(増減)2011年3月1日2011年8月1日2011年12月1日3月と8月との比較8月と12月との比較3月と12月との比較県 北3266568167916▲214県中(郡山市)22536521506▲15▲15▲30県中(郡山市以外)11717272101県 南101101161136▲33会 津192382422394▲31南会津11215143▲12相 双161206161▲590▲59いわき27261258258▲30▲3合 計1382,0131,9661,942▲47▲24▲71

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