FUKUSHIMAいのちの最前線
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236第15回放射線事故医療研究会 シンポジウム「東京電力福島第一原発事故時の緊急被ばく医療」福島医大被ばく医療班の取り組みActivities of Radiation Medical Group in Fukushima Medical University福島県立医科大学附属病院救命救急センター被ばく医療班 長谷川 有史Arifumi Hasegawa, Fukushima Medical University Hospital,Emergency and Critical Care Medical Center, Radiation Emergency Medical Team, arifumih@yahoo.co.jpSummary 福島では「原発内では高線量被ばく」「周辺地域では低線量・広範囲・長期的被ばく」という人類史上2度目の原子力災害が今なお進行中である。1.発災初期:複合災害による病院機能低下 地震,津波被害による,誤嚥性肺炎,低体温,骨盤骨折傷病者が連続搬送された。断水で通常医療もままならぬなか,福島第一原子力発電所事故が発覚した。14~15日に4人の被ばく傷病者が相次いで緊急搬送された。対応した救急医と放射線科医が自然発生的に現在の被ばく医療班を形成した。相次ぐ被ばく傷病者発生,情報錯綜と住民避難指示拡大は,複合災害対応で疲弊した職員を不安と恐怖に陥れた。当時,院内緊急被ばく医療マニュアルは存在したが未周知だった。2.緊急被ばく医療班の立ち上げ 15日午後に被ばく医療の専門集団である長崎・広島大学合同REMAT(Radiation Emergency Medical Assistant Team)が来院,初めて原発事故の現状説明を受けた。危機的現実は当初われわれを悲観的・鬱的精神状態に陥れたが,学外専門家のクライシスコミュニケーションにより蘇生され「胆を据えた」。緊急被ばく医療立ち上げは学外支援なしには不可能だった。 班員には「危機介入者」で「一定の危険を伴う業務」であることを周知した。目標を「原発事故の早期収束」,手段を「原発作業者の健康安全安心を支える」とした。「共通の敵」たる原発の情報収集をして被ばく傷病者搬送に備えた。3.原発作業員への緊急被ばく医療 16日には拠点化後最初の被ばく傷病者が自衛隊ヘリで搬送された。以後これまで12人を収容し,内部被ばく疑いの傷病者3人を放医研に転送した。被ばく汚染様式は,全身6名,局所4名,外部被ばくのみが2名だった。 現在も「除染」業務担当自衛隊,学外医療チームの支援のもと「緊急被ばく医療」体制を維持している。傷病者の「生理学的重症度」と「被ばく・汚染度」から「疾病治療」と「汚染検査・除染」の優先順を決める。 毎朝多職種会議で知識充塡(ミニ講義)し,原発最新情報・達成事項・未解決問題を明確化し,web会議で現状と全体の中での当院の位置を確認する。定期的シミュレーションと勉強会で知識と技能拡充を図り組織運営している。4.公務危機介入者への健康管理支援 原発に近接する消防職員は,公務危機介入者と同時に被災者でもある。5月4日に遅すぎた被災消防訪問を行った。職員の身体・心・放射線不安は危機的状況で,業務に支障が出つつあった。自責の内に健康相談外来を開設,危機介入を始めた。心身面は学内外精神科に協力いただき,われわれは放射線被ばく汚染に特化した検査診察説明を行っている。公務危機介入者の放射線健康相談を行う施設は少ない上,消防には公的健康管理システムがない。発災後半年以内に被災消防,警察,ほか約250人の受診希望に対応する。5.原発周辺地域住民への支援 原発作業員,公務危機介入者と比較して,一般住民の被ばくは低線量で慢性的である。すでに放射性物質は飛散し,土壌は汚染され,住民は被ばくに不安を抱いている。しかし過去にも世界中に放射性物質が

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