FUKUSHIMAいのちの最前線
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234将来の緊急被ばく医療の課題ボディカウンタの測定の結果を説明できた人たちには相当健康不安を軽減する効果があったということですから,やはり相手に合ったかたちで説明ができる機会を増やす工夫が必要であると思います。金谷:躓きの原因というと何ですが,今回,低線量長期慢性被ばくに対してどうするか? それからグレーゾーンに対してそれが安全だというように最終的にいい切ったところに問題があったのかどうか? グレーであればグレーだというようにいったほうがそこはよかったのか? そのあたりは私も最初は本省のほうに出ていたところもあり,その立場からここに失敗の感があるかと思いますので,そのあたりで先生のご意見をいただければと考えています。鈴木:私もずいぶん講演会をやっています。どうしても栃木や茨城,あるいは東京が中心になるのですが,私自身はだいたいリスクの大きさがあったとしてこのぐらいですよという,急性被ばくの疫学調査から得られたリスク係数,子どもさんのリスク係数を使って説明するようにしています。そして「あったとしてこれぐらいです。もしかするとそれよりはずっと低いかもしれません。動物実験やいろいろな疫学データではそれよりも低く出ていますよ」といういい方をしていくと,あんがい皆さん納得なさいます。 ICRPがこういっているから安心だとか安全だといういい方をすると,まずは信じてもらえません。そういう絶対安全だといういい方をしないで,むしろ年間1mSvあるいは5mSvのリスクの大きさというのは,今一番高く見積もったときこのぐらいですよといういい方のほうが,皆さんわかってくれます。そのリスクの大きさと,もしそれを避けるためにあなたは今から移住しますか,今いるところを捨てて別の土地に行きますか? というような問いかけをしていく。そうするとそのリスクの大きさを認識した上で,それは自分の生活にとって受容可能なのかどうかという判断です。それを皆さんに考えてもらえる機会を作るというのが,私自身はリスクコミュニケーションだと思います。 ただ反対の意見をいう人がいて,私たちが寄って立っている一番エッセンスのデータそのものに対して,いろいろ疑問を差し挟む専門家もいますので,それは先ほどいったようなラウンドテーブルディスカッションの中で,それぞれの根拠になっている知見というものを,かなり専門的にはなるのですが披露し合って,そこの中でそういう考え方の違いがどこから来ているのかを見せるしかないだろうと思っています。前川:フロアの方で,ぜひこれだけは少し時間を割いて議論をしてもらいたいということがあれば,ご提案ください。竹中能文(水戸赤十字病院):実は最初のスクリーニングの話ですが,お話を聞いていますと,要するにTPOに応じて100,000cpmというものが決まったということです。そうであれば,トリアージを災害の際に何回かやるように,たとえば入院のときは衣服に付いているものがまた乾けば飛び散ってしまうかもしれないので,再度やるとか,そういったことをむしろ検討していくことも必要ではないかと感じたのですが,そのへんはいかがでしょうか?前川:トリアージにはいろいろあるのですが,現場での応急のトリアージ,それから病院に入ってくるときのトリアージもあってもいいんじゃないかということですが,ご意見ありますか?長谷川:福島県立医大病院ではいわゆる除染の基準の他に院内の除染目標というものを設けております。これは福島医大病院,磐城共立病院,私の知る範囲ではその2つの病院はそれぞれ独自の病院の中での除染目標というものを持っています。ですから先生のおっしゃるとおりだと思います。前川:それは数値的にはどうなのでしょうか?長谷川:当院は現時点では10,000cpmを目標にしています。磐城共立は,いわきの先生がいらっしゃいますか? ……それよりも低いと思います。前川:今のところはそれぞれの病院独自で決めておられるようですが,それは議論する必要があると思います。まとめに入りますか?鈴木:後半で議論したかったのは,今回のような複合災害で,いろいろな行政判断をするだけのデータも少ないという中では,やはり住民の防護,あるいはファーストレスポンダーの防護というところが中心にならなければならないと思います。そういう少ない情報をどう集めて,それをどう判断していくのかということが,やはり問われるのかなと思います。 またもう一方の考え方は,今日の午前中もちょっと紹介しましたが,IAEAの新しい考え方で,イベントでこういうレベルの事故が起きた場合には,類型的にはどのくらいの範囲でどのくらいの被ばくになるということで,ある範囲は防護対策を自動的に行ってしまう。それのほうが多分,情報共有をしなくても意思決定が早くなると思います。そして,そのための組織を準備するという考え方があると思います。「情報共有」「意思決定」それを可能とする「組織」とは?

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