FUKUSHIMAいのちの最前線
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第3章放射能との闘いFUKUSHIMA いのちの最前線233影響に関しては確かにわからない部分があるので,これはしようがない。たとえば100mSv以下の議論というのは,これはもう今の状況では未来永劫続くかもしれません。それはそれとして,いろいろな情報が飛び交っているということは確かにありますが,ただ多くの意見はわりとワンボイスに収束しているのではないかと思っています。長谷川:そこの部分がまさに問題だというふうに私には思えます。実はその先生のお考え,ここの皆さんのお考えが,そのまま一般の方々に伝わってきていないという事実。前川:いえ,いえ。それを認識しているからこそ,今,この会でメッセージを発表しましょうといっているわけです。それから実は避難の基準の年間20mSvの話にしても,今回の除染の基本方針にしても,国が発表しているものは国民の目線で発表していないですね。いつも枝野さんが記者会見でいっているのですが,枝野さんは専門家ではありません。じゃあ,年20mSvにしましたというときの話はどうやってできたのか,という説明がまったくなかったでしょう。そのときに,たとえば鈴木先生がそばにいて,ここは20mSvをまず参考レベルの上限として決めて,限りなく1mSvに近付こうという努力をするための数字です,と説明されればいいのですが,それがすっ飛んでしまっているんです。つまりもう,国からのリスクコミュニケーションが,私はなかったと思っています。鈴木:ワンボイスにする努力をしても,最終的にはワンボイスにならない性格のものだと思うので,反対意見を持った人も含めたラウンドテーブルディスカッションのようなものを繰り返すしかないのだろうと思います。それをオープンなかたちで繰り返して,その中でどちらが科学的に妥当なことをいっているかということを,聞いている人が理解していくことがこれからは必要ではないかと思っています。 そういうラウンドテーブルディスカッションというのは,まだ日本で放射線に関してはないのですが,食品安全委員会で昔,食品汚染に関してそういう議論をしたということが歴史的にはあります。衣笠:少なくともサイエンスに関わった者であるならば,私は何らかの結論が出てくるのではないかと思います。そのときにたとえばICRPのこういうデータに基づいてというように,手の内を全部見せて説明していくことが必要です。 長谷川先生がいっておられたように,わかりやすく説明していく、いくら説明しても,手の内を曝け出しても,わかりにくい表現というのはほとんど説明していないことと等しくなります。ですから2つファクターがあると思います。手の内を曝け出さなければいけないということと,わかりやすく表現できるかどうかということ。その2つはいうのは簡単ですが,とても難しいことですから,それを重視していって初めて共通の認識というか,「そうか,ここの差で考え方の違いが出ているんだな」とか,誰が聞いてもわかるようなものを提示していくという努力が,サイエンティストには必要だと思います。前川:ありがとうございます。先ほど手が挙がりましたが,どうぞ。千葉大(八戸市立市民病院):先ほど前川先生がおっしゃったそのことそのものがリスクコミュニケーションだと思いますし,衣笠先生がおっしゃったように,われわれ医療現場で患者さんに病態の説明や治療方針の説明をすること,すべてがリスクコミュニケーションといえると思います。何が真実かとか誰が正しいかということももちろん大事ですが,正しいことが患者さんや一般市民の方々に正しく伝わっているかどうかが最大の問題であって,結局,あの人が正しいとか,あの人は正しくないことをいっているというようなことを,専門家がブツブツいっている間は,リスクコミュニケーション大失敗ということだと思います。 それといつの時代も,どういうトピックでもおかしなことをいう方は必ずいますので,それを抑制するということではなくて,最大公約数的な,あるいは妥当な内容,あるいは正しく恐れるということが,一般市民の大多数の方に正しく伝わるということ,それが非常に重要なことです。今回はかなり自発的に専門家といわれる方々が一生懸命発言をされていますが,その方々の背中を打つように政府が次々と基準を変更したり,長谷川先生が我慢されているような,そうした専門家といわれる方々の発言の不一致が,どんどんどんどん一般市民の不信を増大する一方で,その一般市民の不信に応えるだけの説得力のあるプレーヤーが残念ながらいないということが,一番の問題だと思っています。ですから私としてはリスクコミュニケーション大失敗で,ぜひ一定の修正が必要だという認識です。前川:パネリストの方で何か発言はありますか?百瀬:病院などでは先生と患者の個別の対話のチャンスがあるわけですが,今回の事故のケースでは,専門の先生は多数の方々に向けて講演をするというかたちでの情報提供が主であり,1対1のコミュニケーションをするチャンスがあまりなかったと思います。一方でテレビや新聞,ネットなどでもリスクに関する不安定な情報がたくさん出て不安を増幅させてしまったと思います。それでも1対1でホール

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