FUKUSHIMAいのちの最前線
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226死者はゼロ、99%が10mSv未満チェルノブイリとは全く異なる 福島第1原子力発電所の事故での放射線被曝による健康への影響を調べるには、住民の定期的なモニタリングが重要となります。そこで昨年5月に県民健康管理調査検討委員会を立ち上げ、県民の健康調査に着手しました。3月11日から4ヵ月間の県民の行動記録と、大気中の放射性物質の濃度や被曝線量を予測する文部科学省のSPEEDIの情報などを基に、個人の被曝線量を推計し、線量評価に基づいて県民の健康管理を行うものです。 6月に浪江町、飯舘村、川俣町山木屋の約3万人を対象に先行地区調査を開始し、8月からは約205万人の全県民に調査票を配布しました。先行地区では既に50%以上の回答があり、解析を進めています。 先行地区の、放射線業務従事経験者以外の9747人の解析結果では、全体の99.3%が4ヵ月間の推計被曝線量が10mSv未満でした。放射線量は、事故後1、2週間でピークとなり、その後は徐々に低くなっていきます。最初の4ヵ月間の被曝線量が10mSv未満だったということは、今回の事故による年間追加被曝線量は、積算しても大半の人は20mSvは超えないだろうと考えられます。 チェルノブイリ原発事故後、放射性ヨウ素の内部被曝による小児の甲状腺癌が報告されました。そこで、県内の子どもやその保護者が安心できるよう、10月から甲状腺エコー検査を始めています。福島県立医大ではこれまでに3765人の検査を行い、0.7%に2次検査を勧める5.1㎜以上の結節を認めました。しかし現時点では放射線による影響とは考えにくく、大部分は元々あったしこりだと考えられます。 また、29.7%に小結節や小嚢胞を認めました。今回の検査は、異常を拾い上げる基準にするものです。異常を早期に見つけられるよう、結節は5.0㎜、嚢胞は20.0㎜と厳しい基準を設定したため、約3割で結節、嚢胞が見られましたが、これは通常の発生頻度と考えられます。 この1年を振り返ると、私自身、批判や非難の矢面に立つ場面も少なくありませんでした。それでも私が「心配ない」と言い続けたのは、医療のプロとして、福島で生活する人の不安や不信感を払拭し、復興と再生を支援したからです。「危ない」と言った方が本は売れるし、「逃げなさい」と言った方が受けもいい。何も健康被害が生じなくても、「間違いだった」と誰にも責められません。しかし、誰もがそうしていたら、福島県民が流出し、危機的状況になっていたでしょう。 今回の事故では、これまで放射線による健康障害で死亡した人は1人もいません。多くの人が命を落とした広島や長崎の原爆、チェルノブイリの事故とは、情勢も状態も全く異なります。安心と安全は異なる概念ですが、科学的知見に基づく低線量被曝への対応が必要です。 線量評価に基づき、疾患の早期予防や発見、治療を行うことが、医療のプロである私たちにできる仕事です。引き続き、県民の健康維持活動に取り組んでいきます。(談)福島県立医大副学長 山下 俊一氏インタビュー放射線被曝

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