FUKUSHIMAいのちの最前線
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208日本医事新報 №4571 2011.12.3「連載第2回 福島リポート」掲載福島県立医大被ばく医療班 長谷川 有史*災害現場を支える医療の現状─抱えた責務と抱えるべき責務─ 原子力災害の現場では福島第一原子力発電所を「1F」と呼ぶ。1Fでは、毎日2000人以上の作業員が昼夜を問わず復旧作業に従事する。事業所の高慢な経営体質、安全神話に基づく杜撰な防災対策には問題があった。幹部は今も中央で高収入の優雅な生活を送る。しかし私が出会った現場の方々は、東電・協力企業を問わず、人生をかけて事態の収束にあたっている。ある方は私に「国民としての責務を果たしたい」という。放射線影響の可能性が最も高いのは彼らだ。過酷な現場で黙々と働く彼らを私は心から尊敬している。 現在、現場では以下の被ばく医療体制が敷かれている。 5・6ER:1F北側の5・6号機サービス建屋救急医療室(通称5・6ER)では、福井・広島など被ばく医療先進地域から派遣された、救急と被ばく医療に習熟した医師らが常駐する。 1F免震重要棟:1号機の向かいに位置し、東電医療班(医師含まず)が作業員の健康管理を行う現場作業基地だ。発災から医師が入るまでの1週間、1Fの医療活動を彼らだけで支えた。つらい思いをさせてしまった。 Jヴィレッジ:1Fから約18㎞南に位置し、全作業員が通過する災害現場への玄関口であり、重要な医療拠点でもある。産業医大を核とした「健康管理」部門と、労災病院機構・東電病院・日本救急医学会を核とした「診療]部門に分かれる。現在約400人/日のペースでインフルエンザ予防接種が行われている。 初期被ばく医療機関:いわき市内2施設が1Fの傷病者を受け入れるが医療者の県外流出は深刻で、震災前に初期機関の役割とされた放射性物質付着(=「汚染」と表現する)傷病者の診療までは対応困難な状況だ。 二次被ばく医療機関:汚染を伴うあらゆる疾病・外傷傷病者に対応する役割を福島医大が担う。これまで1Fの汚染傷病者9名を受け入れたが、震災前の被ばく医療への備えは不十分で、震災直後に学外専門家から支援を受け、かろうじて対応したのが実情だ。 放射線医学総合研究所:東日本唯一の三次被ばく医療機関で千葉市にある。日本最高峰の被ばく医療機関だが医師数が少なく、多数の傷病者を受け入れることは困難だ。震災時は現場医療拠点に入り、助言・指導を行う。 オフサイトセンター:現地原子力災害対策本部にあたる。本来は原発直近に位置するが、震災後数日で通信インフラが絶たれ県庁内に撤退した。厚労省医官が医療班長として常駐し、傷病者発生時には搬送の統括を行う。 東電本店産業医:作業員の健康情報を基に対策を講じ、現場の医療環境の整備も行う。 このほか、本震災で多大な社会貢献をした2団体を紹介したい。 原発の地元「双葉消防本部」職員は事故直後から1F内で消火・救命活動に従事した。消防という危機介入者であると同時に被災者でもある彼らの肉体*はせがわ ありふみ 1993年福島県立医大卒。同大緊急医療学講座助教。 本連載では福島で暮らす救急医で、福島第一原発事故に立ち上がった「福島県立医大被ばく医療班」の陣頭指揮を執る長谷川氏が、原発事故や被ばく医療を取り巻く現状と問題点について報告します。被ばく医療拠点の責務

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