FUKUSHIMAいのちの最前線
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200フクシマの教訓─放射能被ばく事故に学ぶこころのケア院(双葉厚生病院,双葉病院,小高赤坂病院,雲雀ケ丘病院)は入院患者移送を命じられ休業を余儀なくされたし,原発から南にある高野病院も精神科患者を他院へ転院させざるを得なかった。何の準備もない急な移送は混乱のうちになされ,そのストレスと折からの寒さのせいで亡くなる方もおられた。そして,合計840余の精神科病床が一気に事実上なくなる結果となった。30㎞圏内には作業所やグループホームもたくさんあったが,それらも閉鎖に追い込まれた(図3)。それまでこれらの医療・保健・福祉の施設を利用していた患者・利用者の一部は福島県内他地域や他県へ避難したせいで,また多くの施設が閉鎖されたせいで通いなれた行き場を失い困惑することとなった。 率直にいって,私自身このような被ばく事故に遭遇する可能性があること,原発事故のために社会的混乱や精神科医療システムの重大な障害が生じうることを真剣には考えていなかった。いわゆる安全神話に慣れていた。しかし,障害が起き混乱が生じてしまったことは現実であり,今後も起きる可能性が十分にあることを思い知らされることとなった。このような経験をした私たちには,経験したこと,今後も起きうるであろうこと,対処のためになすべきことなど情報を発信し広く国内外に伝えることを求められていると考える。 日本には運転中,定期点検中,停止中を合わせると55基の原発がある(11年7月現在,図4)。それらは北海道から九州まで13道県に広がっている。これらの地域では大地震のような災害に見舞われた時にフクシマと同様な放射能被ばく事故が起きる可能性は否定できない。それだけに日本の精神科医療関係者は,仮定の話としてではなくリアルな話として,起きうるであろうこと,対処のためになすべきことを,知り,考え,行動することが求められている。 病院が丸ごと避難を命じられる事態は,精神科医療施設の経営者も勤務者もほとんど誰も考えたことはないであろう。患者を避難させるといっても,いったいどこへ避難させればよいのか。それを全く突然に命じられ,1~2日のうちに実行せよといわれたらどうすればよいのだろう。実際,3月12日からこの事態が現実のものとなった時,福島県保健福祉部障がい福祉課職員も,私たち福島医大神経精神医学講座の職員も移送先確保のために何日も忙殺されることとなった。災害時の支援物資融通のための近県間の協定は聞いたことがあるが,患者移送の近県病院間の相互協定を結んでおく必要がある。 電子カルテの問題も大切な問題である。電子カルテシステムが浸水したり,電源が破壊されたら途端に何も進まなくなる。データを分散保管し,並行して保管する遠隔地からの転送システムを作っておかねばならない。また,電子カルテは平時には強力であるが,電源がなくなったり病院が野戦病院状態になっているような緊急時には無力である。患者を移送する時に,その患者が誰で,診断は何で,何を服用しているかといった情報を,咄嗟に患者移送の担架の上に乗せられなければ,移送された患者を受け取る側は困惑してしまうことになる。実際,今回フ2 備えねばならないこと図3 浜通り北部の相双地域における被災後の精神科福祉施設(作業所,グループホームなど)の状況,および精神科病床のある病院の状況 (相双保健福祉事務所の米倉一磨氏作成)

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