FUKUSHIMAいのちの最前線
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194 集会を開いたのは,被曝医療の専門家や原子力関係者で組織する放射線事故医療研究会。同研究会は来年学会に改組し,被曝医療の研究活動を充実させていく方針だ。 現在の緊急被曝医療体制は,初期診療を行う「初期被曝医療機関」,専門的な診療を行う「二次被曝医療機関」,高度専門的な診療を行う「三次被曝医療機関」によって構成されている。しかし今回の原発事故では,福島県の5つの初期機関のうち3つが避難区域に入ったことで,その機能が低下した。「一般医師にも被曝医療を」 この問題について,研究会の代表幹事で,現在の被曝医療体制づくりを主導した前川和彦氏(フジ虎ノ門整形外科病院顧問)は「(初期機関の)コンセプトは,『原発の最寄りの医療機関』。原発から一番近い医療機関で初期対応を行ってもらい,二次・三次の専門医療機関に送ることを想定していた」と説明。地域によって原発と最寄りの医療機関の距離が異なることも説明し,初期機関の位置づけに理解を求めた。 これに対して,福島原発事故の被曝患者を診療した福島県立医大の救急医,長谷川有史氏は「そういうコンセプトなら,すべての医療機関が被曝医療に対応できなければいけない。今後,日本が原発を持ち続けるのなら被曝医療の普及が必要」と提言。前川氏は「今後何があるか分からないので,一般医師に被曝医療の基礎知識があっていい」と賛同した。 一方,研究会代表幹事の鈴木元氏(国際医療福祉大クリニック院長)は,今回の事故で現地対策本部の役割を担うオフサイトセンターが機能しなかった問題に言及し(次頁に報告),「緊急時に柔軟に対応できる体制が必要だ。今回の経験を今後にどう生かすかが大事」との問題意識を示した。 被曝リスクの情報発信のあり方について長谷川氏は,「今回の事故では,専門家の見解が統一されずにマルチボイスになっていることが住民の判断を迷わせている」と指摘し,「ぜひ研究会で専門家の統一見解,ワンボイスを出してほしい」と要望した。「見解異なる専門家の議論が必要」 これに対し前川氏は「様々な意見をマスコミに言う人がいるのも事実だが,この会場にいる研究者は共通認識を持っていると思う」との認識を提示。鈴木氏は,「最終的にワンボイスにならなくても,様々な意見を持つ人たちがラウンドテーブルセッションを繰り返し,聞いている人に,どちらが科学的か判断してもらう取り組みが必要。根拠となるデータを披露し合って,考え方の違いがどこにあるか見せるしかない」と指摘した。 一方,国立保健医療科学院政策科学部長の金谷泰宏氏は「グレーゾーンである低線量の内部被曝のリスクを『安全』と言い切ったところに問題はなかったか。そのままグレーゾーンだと言った方がよかったのか」と問題提起。これに鈴木氏は「講演会でも,ICRP(国際放射線防護委員会)の見解を持ち出して説明しても信じてもらえないが,リスクの大きさを動物実験や疫学データを用いて相対的に説明すると納得してもらえる」と紹介。その上で,「被曝リスクを認識して,自分の生活に受容できるかを考えて日本医事新報 №4558 2011.9.3掲載被曝医療体制,リスク情報発信のあり方で専門家らが議論 福島原発事故で医療活動を行った医師が参加した8月27日の集会では,今後の被曝医療体制,低線量被曝リスクの情報発信のあり方について議論が交わされた。緊急被曝医療体制被曝リスクの情報発信

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