FUKUSHIMAいのちの最前線
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154 構内で、蜩ヒグラシが鳴いているのを耳にしました。夜の帷とばりが降りると虫の音が聞こえたように感じました。秋が忍び寄っています。この静謐さ、机に筆を置くと、一いっ時とき、空想の世界に誘いざなってくれます。 豪雨の後の会津、田圃は草原のように青々として、穂先が風を受けて揺らいでいました。畦あぜ道みちや農家の庭先には、芙フ蓉ヨウ、向ヒマワリ日葵、紫アジサイ陽花、木ムクゲ槿、凌ノウゼンカズラ霄花、合ネ歓ムの花が咲いていて、緑を薄くして、岡山の花茣ご蓙ざに見立てて、この景色を車中から楽しみました。川が荒れているせいか、川かわ鵜うが川辺に列をなして立っていました。餌にありつけないのでしょう。 そよと吹く風でさざ波のような波紋をみせてくれている、見渡す限りの田圃、この地が古来から開け、最澄や空海と歴史に残る論争を行った徳一が、大寺院を建立したことも頷けます(高橋富雄「徳一と最澄−もう一つの正統仏教」)。今は、勝常寺に安置されている国宝の薬師三尊像と慧日寺遺跡が残るのみです。 このところ余裕がなく、何かにせき立てられているように考え、動いてしまいます。今年の夏、白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ(若山牧水) 若い時、文科系の人間なら一度は惹かれるこの歌の色彩の対比が、憧れとともに、いつになく鮮明に脳裡に浮かびます。山やま間あいの町で育った人間には、海の広さ、波の音、そして潮風の香りの組み合わせは、永遠の憧れです。この海に、この時季、人影がないのは、寂しいを通り越して、無気味です。 8月6日と9日は広島と長崎に原爆が投下された日です。本県は、3・11の東日本大震災に伴う原発事故で取り返しのつかない惨禍を受けました。この惨禍に対して広島・長崎の両大学に絶大な支援を受けています。感謝の意を表す為に、慰霊祭に大学を代表して出席してきました。 8月8日は、能の大成者とされている世阿弥の命日です。「秘すれば花」、「初心忘るべからず」といった箴しんげん言は私でも知っています。もっとも、後者の正しい意味は「初心者の未熟を自覚せよ」だそうです(堂本正樹「演劇人世阿弥」)。 絵画で国宝に指定されているのが最も多いのが雪舟です(「芸術新潮」1990年1月号)。彼の命日も8月8日だそうです。画聖と称えられている彼の持つ悲劇性や“神話”を知ると、彼の絵画を観る視点が豊かになるような気がします(田中英道「日本美術 傑作の見方・感じ方」)。 今週の花材は、執務室は花器と花の色彩の組み合わせの妙、服装の参考になりそうです。秘書室は、“夏の木陰での憩”を連想させてくれます。今週の花vol.136 憧 憬2011年8月12日■鉄砲ユリ ユリ科/球根植物/原産:日本/花の形が筒状で横向きに咲き、鉄砲の形に似ているのが特徴。沖縄では自生種が群生。■りんどう(パステルベル) リンドウ科/多年草/原産:南アフリカ/《名前の由来》根が薬になり、竜の胆のように苦いことから(竜胆:りんどう)/日本の秋を代表する花で、世界に400種。「パステルベル」はパステルカラーのブルーに白が混ざった涼しげな色。■アナベル ユキノシタ科/落葉低木/小さな花が集まって手毬状に咲き、20㎝くらいの大きさになる。今回使用しているアナベルは満開に咲ききった花がグリーンに変化したもの。緑色の蕾から開花につれ白色に変化し、咲ききるとグリーンになる。理事長室からの花だより

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