FUKUSHIMAいのちの最前線
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148天道は是か非か(司馬遷「史記」) こう言いたくもなる惨禍、そんな中でも大学関係者は、各自が求められる役割を黙々と果たしています。私達大学人ができるのは、医療面での支援だけです。ALL JAPANで、本学に課せられた新たな歴史的使命の遂行に全力を尽くそうと決意しています。 Made in Fukushimaの工業輸出品にも原発事故による風評被害が及んでいるようです。福島県は、フルーツ王国として知られていますが、製造品出荷額が東北トップの工業県でもあるのです。今の福島県は、真に、「行くに輿こしなく、帰るに家なし」(秋月悌次郎)(vol.63)の状態です。 県と役割分担し、我々が担当した原発事故退避圏内・外の医療機関や介護施設からの大学病院への受け入れと、県内各地への再転送のセンターとしての機能が、ここ数日、ようやく落ち着いてきました。24時間体制が遺漏なく遂行できたことは、院長始めスタッフの努力の賜物です。 “自画自賛”を承知のうえで記します。 国や県との緊密な連携のもと、大学は一丸となって、この任務を、自衛隊、消防署、自治体、そして医療・介護関係者の協力の下に、無事にやり遂げることが出来ました。病院機能の維持の為、職員の燃料確保と水道復旧に、政府や自衛隊始め多くの組織から善意を戴き、辛うじて病院機能を維持できました。これらの支援なくしては使命の遂行は不可能でした。関係者全員に只感謝です。 普段なら、今頃は、福島市内の花見山、三春の滝桜といった花の名所に全国から観光客が押し寄せてくるところです。しかし、今の福島は、地震、津波、そして先の見えない原発事故で、そんな雰囲気はまるでありません。 上手くなった鶯ウグイスの鳴き声に背中を押されるように毎朝家を出ます。気を取り直して車に乗るまでに心の切り替えを必要としているこの頃です。 地上では、いつも土色に濁っている、濁にごりがわ川に架かっている木橋に目をやると、橋の下に鴨たちがゆったりと泳ぎ廻っています。天上には、雲一つない青空が沈黙して広がっています。原発事故の前と後では自分の環境は勿論、世相は一変したのに、自然は微動だにせず時を刻んでいます。 通勤路には、紅・白の梅、日当たりの良い場所に早咲きのしだれ桜が、庭や構内の生垣には寒椿と山さざん茶花かといった花々が、ここでも何事もなかったように、移ろいのあることを知らせてくれます。世は一いちじょう場の春の夢(土井晩翠「天地有情」) この詩歌が、深夜、本を繙いている時脳裡を過ぎります。“Life is but an empty dream!”〔人生はうつろな夢に過ぎぬ〕(H.W. Longfellow「A Psalm of life」) 執務中は一日中、この詩が通奏低音として心の底を流れています。この歳になって“人生”を見詰め直すことになるとは、考えもしませんでした。 今週の花材は、執務室は桜の登場です。この彼岸桜は今回の震災で亡くなった全ての人への鎮魂です。秘書室も、今週は黒の花器で静せい謐ひつを表現して、暖色の花を組み合わせています。これも鎮魂の表現です。今週の花vol.121 寂せき 然ぜん2011年4月15日vol.120 一いちじょう場の夢2011年4月8日■彼岸桜 バラ科/落葉高木/別名「小彼岸(コヒガン)」「小彼岸桜」/《名前の由来》春のお彼岸の頃に開花することから/他の桜に先がけて開花する品種。花色は淡紅色で一重咲き。気象庁の発表する桜前線は「染井吉野」。理事長室からの花だより

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