FUKUSHIMAいのちの最前線
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142 今なら、あの喜びに似た感覚の理由がわかります。「地域に生き、地域で働くことのできる家庭医」と言う大きな夢を共有する仲間たちの存在、そして彼らを支えるすべての人たちが、あのときの私を遠くから強力に支えてくれたことを。 私にとって3.11は、「人は、独りでは生きていけない」ことを思い知ったのと同時に、福島のいわきに生き、福島のいわきで家庭医として働いていけることが、私に生涯を通して“喜びと誇り”を与え続けてくれることを確信した日でもありました。* * * 東日本大震災では、地震、津波の被害が沿岸部を中心に広範囲に及んだことや原発事故の発生により、様々な背景を持った多くの方々が避難を余儀なくされました。特に原子力災害という特殊な事情により、地震そのものでは無傷であったにもかかわらず、原発避難区域内にいた多くの寝たきり患者さん達が、食料も医療資源も不十分な中で急遽集団避難を強いられるという状況が発生しました。情報網が混乱し充分な医療支援が到達する間もなく、仮避難所や過酷な長距離搬送の過程で20名を超える犠牲者を出してしまう悲劇となりました。 また、今回は阪神淡路大震災や新潟県中越地震などとは異なり、犠牲になられた方の多くは津波による溺死で、地震そのものによる建物損壊で重い外傷を負った患者さんは比較的少なかったことが被災地の各中核医療機関から報告されています。全国から多くの災害支援医療チームが被災地に入りましたが、発災後数日で外傷への急性期対応は一段落し、その後の避難所での医療ニーズは、交代制で避難所を巡回する災害支援チームの医療に徐々に馴染まなくなっていきました。その時、避難所の方々が私たち医療者に求めていたものとは……。 長期化する避難生活では、かぜや感染性胃腸炎などの感染症対策といった急性の問題への対応はもちろんのこと、高血圧や糖尿病、不眠症や便秘症などの慢性疾患への適切かつ継続的な管理が求められました。避難所にいる多くの方は、例えば“余震の恐怖や原発事故の不安で眠れない日々が続いた結果、血圧が急上昇し、それが更なる不安やうつ状態を招く”といった具合に、日常よく遭遇する健康問題を同時に複数抱えていました。災害弱者と呼ばれる高齢者やもともと持病を持っている方、子供や妊婦さんだけでなく、本来健康問題とは無縁と思われる人たちですら、偏った食生活、過度のストレス環境下で徐々に体調を崩していきました。 長期化する避難生活の中、災害医療チームの支援だけではカバーしきれない時期にすでに入っていました。その時、避難所の方々は包括的かつ継続的に診てくれる“かかりつけ医”を求めていたのです。* * * 長期化する避難生活では、かぜなど急性の問題への対応はもちろん、高血圧や不眠症などの慢性疾患への適切かつ継続的な管理が求められました。避難所にいる多くの方は、日常よく遭遇する健康問題を同時に複数抱えていました。災害弱者と呼ばれる高齢者や子供だけでなく、本来健康問題とは無縁と思われる人たちですら、偏った食生活、過度のストレス環境下で徐々に体調を崩していきました。 被災地の通常の医療システムが機能しない中、災害急性期から災害支援チームによる避難所の巡回診療が行われ、避難者の健康管理に寄与したことは言うまでもありません。その一方、発災後10日を過ぎた頃から「度々お医者さんに診てもらえるのはありがたいけれど、毎日違うお医者さんが来て、それぞれ違う薬をおいていくからどれを飲んだらいいか分からない!」「何度も始めから同じことを話さなければならないのが辛い!」といった声が避難所で聴かれるようになりました。先が見えない避難生活の中、継続性の乏しい散発的な医療支援ではカバーしきれない時期にすでに入っていたのです。その時、避難所の方々は包括的かつ継続的に診てくれる“かかりつけ医”を求めていました。 避難所では時に自分のかかりつけ患者さんと偶然出会うことがあります。「無事だった?」と尋ねると「先生、来てくれたの~!!!」と喜んでくださいます。しかし、避難所には、かかりつけの診療所自体が被災していたり、原発避難区域内にあるという事情で、当分の間かかりつけ医に受診できる見込みが立たない方が大勢いました。そんな方々のために、普段からかかりつけ医の代わりに多彩な健康問題に対して継続的に診てくれる医師が必要でしたし、その役割を果たしたい一心から、可能な限り近隣の避難所を継続的に訪問しました。 その結果、もともとのかかりつけではない患者さんからも「先生、また来てくれたの~!」と声をかけてもらえるようになり、新しいかかりつけ医として認めていただけた喜びと、共に歩んでゆく使命感を自覚することができました。* * * 家庭医とは、よく起こる体の問題や心の問題を適ようこそ家庭医療へ!~いわきに生きる家庭医育成への挑戦~

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