FUKUSHIMAいのちの最前線
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第2章福島医大関係者行動記録〈手記とメッセージ〉FUKUSHIMA いのちの最前線115停止しました。また、余震が断続的に継続していたため、手術室内の器材を保管してある棚の数個が落下しました。この時点で、地震の規模がどの程度のものかはわかりませんでしたが、サプライホール係の看護師として、全身麻酔中の患者さんがいる手術室へ、麻薬や鎮静薬、バッグバルブマスクを配布して回りました。 15時30分、その後も大きな余震が継続していることや、地震の概要がわかってきたことなどから、手術部副部長や麻酔科責任医師により、手術継続は困難であり、予定の未実施手術11件を中止するとの判断がされました。各手術室へ手術中断の指示が出され、全身麻酔中の患者さんは術後に同階のICUへ移動することになりました。 病院建物の安全が確認されると、1.2階で検査や透析中だった患者さんを、当該病棟へ非常階段を利用して担架で移送しました。そのため、局所麻酔で手術を受けた患者さんは、手術を終えてもすぐに病棟へ帰室することができず、エレベーターの点検が済み復旧するまでの間、一時的に400mほど離れた同階の看護学部で待機することになりました。看護学部までは、主治医と手術部の当直看護師が移送し、看護学部では主治医と手術部看護師、看護学部教員が患者対応を行いました。 最後の患者さんが手術室を無事に退室したのは、地震発生から約2時間後のことでした。その後も大きな余震が断続的に継続していたため、手術室内のすべてのドアを開放したままにしました。 また、患者さんが退室した部屋から順に、片づけと設備の破損状況の確認を行いました。サプライホールではスプリンクラーが浮き上がってその周囲から建材の粉が落ち、空調設備枠が外れました。手術室内では、術野撮影用のカメラが固定器より外れそうになったり、天井からの中央パイピングが定位置よりずれてしまった部屋が確認されました。カメラを固定器より外して落下の危険がない状態にし、パイピングがずれた部屋は点検が終了するまで使用禁止とし、閉鎖しました。 地震による被害状況の詳細がわかりませんでしたが、緊急手術に迅速に対応できるよう、9室に全身麻酔用の器材と開胸、開腹、開頭、穿頭、骨接合など予測される術式の器材を、サプライホール中央には救急カートや消毒薬、洗浄水などの薬品、ガーゼやシリンジなどを準備しました。その間に、震災当日は休みだったスタッフが次々と出勤してきました。 地震の影響で市内は広範囲で断水となり、病院も断水となったため、使用後の器械の洗浄が行えなくなりました。滅菌に関しては、高圧蒸気滅菌・EOGガス滅菌は使用できなくなり、ステラット滅菌のみで対応することになりました。手術部内のステラット滅菌器は容量が小さいため、材料部にある大容量のステラット滅菌器を手術部内に移動・設置し、常時使用できる状態としました。また、使用後の器械はとりあえず蛋白分解洗浄剤を通常より多めに吹きかけ、乾燥しないようにビニール袋で覆い、保管することにしました。 院内では対策本部が立ち上げられ、被災状況がはっきりしないため、妊娠中や幼少の子どもがいるスタッフ・委託スタッフを除いたすべてのスタッフに待機の指示が出されました。また、当日の夜勤者と週末の勤務者を増員するため、急遽勤務の組み替えが行われました。震災当日は22時まで院内待機となりましたが、近辺から手術となる患者さんが搬送されてくることはありませんでした。②その後の手術室 その後の1週間は、当院で予定されていた手術はすべて中止とし、市内の病院が断水により手術を行える状況でなかったため、緊急を要する帝王切開や骨接合などの手術を毎日数件ずつ行いました。手術室スタッフの一部は、被災地の病院・施設から移送されてくる患者さんを受け入れるために、他病棟への応援勤務や患者移送のサポートをしました。 震災1週間後の18日にようやく水道が復旧し、震災時に手術中だった患者さんの再手術や、予定されていた手術の一部を開始しました。しかし、まだ物流が完全に復旧しておらず、震災前のような手術件数を行うことができる状況ではありませんでした。そのため、被災地への巡回診療に駆り出される手術部看護師もいました。* 今回の震災では、当院は直接建物への被害がなかったことから、年末に行った手術部内での避難訓練が役立ち、スタッフがそれぞれの立場で冷静に対応できていました。避難訓練時に手術室数に見合った数のバッグバルブマスクが常備されていないことや、懐中電灯が不足していることが指摘されたため、購入・補充しており、物品が不足することがなく対応できました。ただし、院内から担架の貸し出し要請が来たときに、保管場所が周知されていなかったため、スタッフの誰もがすぐに対応できる状態になかったこと、器材室の奥に保管してあったため取り出すまでに時間がかかったことは、物品管理の面で反省すべき点です。医師・手術室スタッフの安全に対する行動はすばらしいものがありましたが、今回福島県立医科大学附属病院の活動記録

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