FUKUSHIMAいのちの最前線
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106害時こそ家庭医の役割がより重要になる!」ということを今回の震災の経験を通して確信しました。 医療資源が絶対的に不足する被災地では、多科の複数の医師らがチームを組んで避難所を巡回することは困難です。そのようなときこそ、家庭医のように複数の健康問題を同時にケアできる医師が、医療の効率化を図る上で重要な役割を果たします。避難所では、かぜ、頭痛、腹痛、腰痛から、高血圧、糖尿病などの生活習慣病、さらに不眠や抑うつ気分など心の問題に至るまで、よく起こる健康問題を包括的かつ継続的に診る能力が特に求められました。 しかも、災害時という特殊な状況下では、患者さんの気持ちや家族・地域の事情を充分に考慮した医療を、各科専門医やケアにかかわる人々と連携して行う必要があります。これはまさに家庭医を特徴づける能力を存分に発揮すべき場となりました。 これまで述べてきたとおり、避難所を訪問することで、診療所や病院を訪れる患者さんだけを診ていては決して知ることができない、地域で起きている健康問題の全体像や地域の医療ニーズを垣間見ることができました。そこには身体的にも精神的にも社会的にも重大で複雑な問題を抱えながらも必死に耐えている方々が存在していました。その一人ひとりと涙ながらに語り合うことで、この地に生きる家庭医として自分が成すべきことを教えていただきました。 ただし、避難所の状況はあくまでも被災地域のほんの一部を反映しているに過ぎません。たとえば自宅で孤立している独居高齢者への支援も重要ですし、今後は避難所から仮設住宅や一時借り上げ住宅へ移動する方々が、新たな生活の場で孤立することなく自立した社会生活を営むことができることを見届けながら、新たに必要な支援を見極め提供していかなければなりません。刻々と移り変わる環境と時間の経過に応じた地域全体の長期的なケアを続け、この夏の猛暑で増加が懸念される孤独死や震災関連死を予防していきたいと強く思っています。避難所のケアから地域全体の長期的ケアへ 質の高い医療が地域で円滑に提供されるための条件として、地域の診療所の医師と病院の各科専門医との良好な連携は最も重要な要素と言えます。今回の大震災の急性期においても、軽症な患者さんのケアや慢性疾患の継続的管理、および疾病予防のための生活指導などを担うべき地域の診療所の医師の役割はきわめて重要でした。 しかし、実際は地域の診療所の多くが診療を継続することができなくなり、地域医療を守るネットワークとして機能しませんでした。その結果、多くの人々が直接病院へ殺到し、病院の医療スタッフは疲弊してしまい、より重症な患者や専門的な治療を要する患者のケアといった本来病院が担うべき役割を果たすことが困難になりました。このような事態が起きてしまった理由は……。 被災地ではあらゆる連絡手段が一時完全に寸断されました。その結果、系統立った医療連携が立ち行かなくなったことで地域医療の崩壊を招いたという指摘があります。また、原発事故による放射能汚染の影響で支援物資の物流が滞り、いわき市をはじめ福島第一原子力発電所の周辺地域では水や食料のみならず深刻なガソリン不足を来しました。そのことが医療機関の職員の通勤や訪問診療・訪問看護をも困難にし、小規模な医療機関から順に診療中断を余儀なくされていったことも事実です。しかし、原因は本当にそれだけなのでしょうか? 現在の日本では、地域の診療所の医師のほとんどは個人開業で、しかもその大多数は開業直前まで病震災で崩壊した地域医療と医療連携日本の地域医療システムの脆弱さ被災して壊れた病院の廊下(この写真は財団法人星総合病院の提供によるものです)3福島から発信する新しい医療体制の提案 どんな状況下でも機能し続ける地域全体の健康づくりを、国民一人ひとりが主体的に参加し創りあげていこう。(2011年9月6日)家庭医が綴る福島からのメッセージ

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