FUKUSHIMAいのちの最前線
110/608

104は、2006年から全国に先駆け、県ぐるみで質の高い家庭医の育成に力を入れています。「家庭医」とは、よく起こる体の問題(かぜ、頭痛、腹痛、腰痛から、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病など)や心の問題(抑うつ気分、不眠など)を適切にケアすることができ、各科専門医やケアにかかわる人々と連携し、患者さんの気持ちや家族の事情、地域の特性を考慮した「患者中心の医療」を実践できる専門医のことをいいます。 患者さん側からみると、家庭医とは、赤ちゃんのときから高齢になるまで、本人や家族の健康について心配なことや不安があれば、何でも相談して診てもらえる医師ということになります。 医療崩壊が進む現在の日本では、地域に発生するあらゆる健康問題に適切かつ効率よく対応し、地域住民と強固なパートナーシップを築き、地域全体の健康増進に継続的に責任をもつ家庭医は、地域医療の救世主として、その価値が急速に見直されつつあります。 福島県では、県内全域に広がる多数の医療機関と地域住民・行政が、大学とともに協働し、大規模スケールで家庭医を養成しています。この先進的なプロジェクトは、“福島医大モデル”として全国に紹介されています。 地域に生き、地域で働くことのできる家庭医の育成が、福島県の地域医療再生と日本の医療の未来のために課せられた当講座の使命であると考えています。仲間たちとの再会 この予期せぬ災害は、日頃私たちを見守り育ててくれている地域の皆さんのために働くことができるという、喜びに似た感覚を私にもたらしていました。「この惨状に対し“喜び”とは不謹慎だ!」とお叱りを受けるかもしれません。しかし、事態の深刻さが明らかになるにつれ、なおさら「今の自分にできることならば、何でも喜んで捧げたい。たとえそれが過酷を極めても……」そう思っていたのは事実です。まして「いま福島にいること」を悔やんだりする感情は全く湧きません。それは何故なのか? 震災から6週間余り経った2011年4月23日。福島医大で2か月ぶりに「FaMReF」(ファムレフ)が開催されました。「FaMReF」とは「Family Medi-cine Resident Forum」の略称で、県内各地の家庭医療後期研修医らが毎月1回一堂に会して学ぶ月例の勉強会です。 当講座開設以来5年間毎月欠かすことなく開催されてきた恒例のイベントだったのですが、3月に予定されていた「FaMReF」は、震災の影響で史上初の中止となりました。 危機を乗り越えた仲間たちとの2か月ぶりの再会に涙し、黙とうで始まった「FaMReF」は、「震災を語る!」をメインテーマに進行していきます。そこから見えてきたものは……。 同じ福島県内で同じ時を過ごしながらも、各地で全く実情は異なっていました。しかしながら、個々人がそれぞれの持ち場で、現地のスタッフらと助け合い行動してきたこと一つひとつが、県内全域にわたる大規模な災害医療支援の歯車となって機能していたことを、振り返ることができました。 今の時点なら、あの喜びに似た感覚の理由がわかります。「地域に生き、地域で働くことのできる家庭医」という大きな夢を共有する仲間たちの存在、そして彼らを支えるすべての人たちが、あのときの私を遠くから強力に支えてくれたことを。 私にとって3.11は、「人は、独りでは生きていけない」ことを思い知ったのと同時に、福島に生き、福島で家庭医として働いていけることが、私に生涯を通して“喜びと誇り”を与え続けてくれることを確信した日でもありました。FaMReFでのグループディスカッション福島県内に広がる家庭医療学専門コースの診療・教育拠点(2011年度)※双葉町の地域・家庭医療センターの設立は、福島第一原子力発電所の事故のため延期となった地域に生き、地域で働くことのできる喜びと誇りを胸に家庭医が綴る福島からのメッセージ

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です