2人に1人はがんになる時代の
3大標準療のひとつ!

放射線治療の最先端! 放射線治療の最先端!

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ノートイラスト ペンイラスト ×イラスト ○イラスト △イラスト 黒板消しとチョーク 福島県立医科大学 田巻先生のオンライン出前講座

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がんは日本人の2人に1人が生涯で罹患する身近な病気だけに、治療の最前線が気になるところですね。そこで注目したいのが近年めざましく進歩した放射線治療。手術や抗がん剤治療と並ぶがんの3大標準治療の一つで、がん治療の中でも欠かせない存在になっています。放射線は目に見えず、日常生活の中で浴びていても何も感じませんが、実は身体を傷つけずにがん細胞をやっつけて病気を治すことができる頼もしい存在なのです。放射線はいかにしてがんと戦うのでしょうか? 患者さんにとってどんなメリットがあるのでしょうか? 放射線治療の最先端で活躍する、福島県立医科大学附属病院 放射線治療科の田巻倫明先生に話を聞きました。

お話を伺った人

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田巻倫明 先生

「患者さんの命にかかわる診療科に行きたい!」との熱い思いからがんの治療を志した医師。放射線治療の名医。
1975年、新潟県生まれ。Middlesex School(高等学校)卒。1998年、スタンフォード大学卒。2003年、群馬大学医学部卒。2009年、群馬大学大学院医学系研究科修了。福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座教授、医学部附属病院放射線治療科教授。

INDEX目次

01放射線治療とは?メリットや治療費についても解説

放射線治療とは、どんな仕組みでがんを消滅させる治療法なのでしょうか?気になる放射線治療のメリットや治療費の目安、治療にかかわる体制についてもご紹介します。

放射線治療は、がん治療に
おける
最良の治療のひとつ!

放射線治療とは、その名の通り、放射線を利用した治療法です。じつはがん細胞のような細胞分裂の活発な細胞の方が、正常な細胞に比べて放射線に弱い性質を持っており、この特徴を利用しています。

検査イメージ

がん病巣に放射線を照射することにより、がん細胞内のDNAにダメージを与え、がん細胞を縮小・死滅させます。正常な細胞は少量の放射線であればダメージを受けても自力で回復することができます。そこで放射線の量を小分けにして照射することで、正常細胞を回復させつつ、がん細胞をたたいていきます。

放射線治療イメージ

「がん治療では、手術、放射線治療、抗がん剤治療の3つを組み合わせて治療するのが一般的です。手術ができない患者さんには、抗がん剤治療と放射線治療を合わせてがんを治したり、進行を抑えたりする場合もあります。また、病巣が小さい場合など、病状によっては放射線治療単独でも根治を目指した治療を行うことが可能です」と田巻先生(以下同)。

がん治療イメージ

放射線治療のメリットは?欧米ではじつはスタンダード

放射線治療は手術と違って人体を切らずに治療できるため、身体への負担が少なく、手術や麻酔に耐える体力がない高齢者や合併症を持つ人、がんが進行していて手術が困難な人でも治療できます。また、手術で切除するのが困難な部位でも放射線治療を用いて治療できます。外来通院でも治療が可能で、治療中に痛みや熱さを感じることはありません。

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「手術で臓器や器官を取り除いてしまうと身体機能を損なう可能性がありますが、放射線治療の場合は臓器の機能や形態を維持して治療ができるのが良いところです。副作用も比較的少ないので、生活の質を保ちながら病気と戦える優れた治療法ですが、海外の先進国と比べると日本ではまだ普及率が低いのが現状です。欧米ではがん患者のおよそ6割が放射線治療を受けているというデータがありますが、日本では3割程度。いかに普及させていくかが今後の課題です」

放射線治療にかかる費用について。保険適用されるの?

治療費は、照射する部位(臓器)や照射方法によって異なりますが、原則的に健康保険で治療が受けられます。また、1ヶ月あたりの医療費の自己負担には高額療養費制度による上限が設けられていますから、上限を超えた分は払わなくて済みます。詳しくは担当医や医療機関などに相談してみると良いでしょう。

放射線治療にかかわるスタッフは? エキスパート揃いで安全・安心!

放射線治療では、専門的な知識を持ったスタッフが連携し、安全・安心かつ正確な治療の提供に努めます。どんなスタッフがかかわり、どんな役割を果たしているのでしょうか。

  • 放射線腫瘍医/患者の診察所見や検査結果をもとに、放射線治療の方針や計画を決定します。治療期間中や終了後も定期的に患者を診察し、最適な処置を行います。
  • 診療放射線技師/医師によって決定された放射線治療方針に従って、正確に放射線を照射します。(放射線診断では、レントゲンやCTも撮影する職種です。)
  • 医学物理士/医師と協力して治療計画の立案を行います。また、放射線治療装置の精度管理を行い、放射線治療が正確に行われるように品質管理を担当します。
  • 放射線治療看護師/治療期間を通して患者や家族の身体的・心理的ケアを行い、相談に乗ります。

02放射線治療の種類と方法は?
それぞれのポイントを解説

放射線治療の種類は、大きく分けて2つ。身体の外側から放射線を当てる「外部照射」と、身体の内部からがんやその周辺に放射線を当てる「内部照射」です。患者の病状や状況に応じて選択されます。

外部照射とは?放射線治療の多くがこの治療法

体の外から放射線を当てる治療法で、IMRT(強度変調放射線治療)やSRT(定位放射線治療)などの高精度放射線治療もこれにあたります。通常は医療用直線加速器(リニアック)を用いてエックス線の照射を行います。より線量を集中させることができる「陽子線」や「重粒子線」という放射線を使うこともあります。

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「現在、放射線治療のほとんどが外部照射により行われています。病変に集中してビームを当てられるので、身体のどこでも治療できますし、症状を緩和するためにも用いられます」

内部照射とは?おもに子宮がんの治療で用いられる方法

イリジウムやコバルトなど放射線が出る物質(放射線源)を閉じ込めた小さいカプセル(小線源)を体内に挿入した器具の中に挿入して、病巣の内部やその周辺からからがん病巣を攻撃する治療法です。小線源治療とも呼ばれます。

治療方法は部位によって異なり、子宮腔、気管支、食道、胆管などでは、体腔内に線源を挿入する「腔内照射」、膣、舌、前立腺、乳腺などの部位では、がんに直接線源を挿入する「組織内照射」が行われます。外部照射と併用して治療が行われることも少なくありません。今日、日本では主に子宮頸がんに対して用いられます。

03放射線治療の最先端!技術の進歩でもっと治る病気に?

がん治療でますます期待が高まる放射線治療。最近の装置では放射線のビームをより精密に調整できるようになっています。優れた成果をあげている最先端の治療法を見ていきましょう。

IMRT(強度変調放射線治療)

がん病巣や正常組織の形に合わせて、放射線のビームの形状や強弱を細かく調整して照射します。病巣に対して十分な放射線を照射しながら、正常組織への放射線を減らすことができます。装置を回転させながら行うIMRTを強度変調回転放射線治療(VMAT)といい、短時間での照射が可能です。

IMRTイメージ
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「ぐるりと回転する装置を使えば、360度、どの角度からでも照射できますし、しかも回転しながらがんの形状に合わせてピンポイント照射をすることも可能です。ビームの形を正確に設計することで、患者さんの身体へのダメージを最小限に抑えることができます」

SRT(定位放射線治療)

病巣を数mm以内の精密に位置決めし、多方向からピンポイントで放射線を照射して、小さな病変に高線量を当てます。強い線量を正確に照射できるため、周辺臓器へのダメージを減らすことができます。脳のピンポイント照射ではガンマナイフという装置もよく使われます。

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「定位放射線治療の場合、周囲の正常組織に対する被ばくを極力抑えながら、病変の部分にのみ高線量を照射することができるので、通常の放射線治療よりも短期間で完了することができます。たとえば早期の肺がんの場合は4回の照射で治療が終了することも多いですし、治療成績も良好です」

粒子線治療
(陽子線治療・重粒子線治療)

粒子線治療では陽子線や炭素イオン線といった粒子のビームが使われます。粒子線は、ある深さにおいて非常に強く作用し、またその深さ以上には進まないという特性があります。そのため、身体の深いところにあるがんに集中的に多くの放射線を当てることができ、病変の手前や奥にある正常な組織の損傷を低く抑えられます。正常組織に当たるエネルギーを小さくし、がんに対して多くの放射線を当てることができるので、大きな治療効果が期待できます。

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「粒子線治療ができる施設は限られていますが、保険の適用範囲も少しずつ広がってきました。重粒子線治療は切除非適用の骨軟部腫瘍など、陽子線治療は小児腫瘍などに保険適用となり、前立腺がん等にも適用が拡大されています」

がん免疫療法

福島県立医科大学の放射線治療科では、放射線治療とがん免疫治療の併用治療の研究にも力を入れており、放射線治療と免疫チェックポイント阻害剤との併用療法の臨床試験やトランスレーショナル研究などを行っています。

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「がん免疫療法と放射線治療は相性が良いと言われています。放射線の照射でがん細胞がダメージを受けると免疫細胞が働きやすくなり、崩れて弱くなったがん細胞をきれいに退治しようとします。つまり、がん免疫療法と組み合わせることで治療に相乗効果が生まれる可能性があるわけです。そのため併用治療に期待が高まっており、研究も進展しています。実際に現場では、今まで治せなかったようながんも治ってしまうような場合も出てきており、がん治療の成績は一段階あがった印象があります」

04放射線治療による
健康影響はあるの?

放射線を照射してがん細胞をやっつける放射線治療では、大量の放射線が使われます。
治療後の健康に影響はないのでしょうか?
そもそも私たちの身体は放射線を受けても大丈夫なのでしょうか。

病院で使われている放射線はきちんとその量が管理されていて安全に十分配慮されています。放射線治療では、放射線腫瘍医がまず患者のCT画像を見ながらがんの広がり具合や各部位をチェックし、その後、医学物理士とともに治療の有効性や安全性を入念に確認するからです。

そもそも私たちは日常生活でいろんなところから放射線を浴びています。宇宙や大地、ふだんの食物にも放射線は含まれていて、その量を一年間合計すると平均で2.1ミリシーベルトになります。ちなみに胸部レントゲンの撮影で浴びる放射線は0.06ミリシーベルトにすぎません。原爆被災者の疫学調査等では、100ミリシーベルト以下の被ばくで有意ながん死亡の増加は認められていません。

環境省「身の回りの放射線 被ばく線量の比較(早見図)」

検査イメージ
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「放射線治療では大量の放射線を照射しますが、あくまでも身体の安全を確保した上で行います。たとえば前立腺がんの場合、しっかりと治療すればほぼ完治するので、60?70グレイ、CT撮影の数千倍以上にあたる放射線を照射します。それでも治療が終われば、また一市民として日常生活を送っていかれるのです。また、放射線治療によって二次がんが発生する懸念を持つ人もいるでしょうが、私は今患っているがんの治療を優先するべきだと思います。もちろん、可能性はゼロではありませんが、治療をしているがんのリスクと比較するとごくわずかであることが大多数です」

05田巻先生からのメッセージ

放射線治療や放射線については誤解も多く、基礎知識を得ておくと、
もしがんと診断された時にとても参考になります。

「環境省では放射線の健康影響に関する風評を払拭するために、『ぐぐるプロジェクト』を立ち上げています。放射線について正確な情報を伝えて、差別や偏見をなくしていこうという取り組みです。国連科学委員会(UNSCEAR)から出された報告書でも、これまでも今も将来も、原発事故からの放射線による健康影響は見られそうにないという結論が出ています。この記事を読んで放射線に興味が湧いた人は、ぜひ『ぐぐるプロジェクト』にもアクセスしてみてください。多様な媒体からさまざまな情報が発信されるなか、風評に惑わされない判断力を身につける一助となると思います」

環境省ぐぐるプロジェクト公式ホームページ

放射線を浴びたらどうなる? 知れば安心な放射線の基礎知識

放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料