光の湾曲が再び着目されたのは,Einsteinが一般相対性理論を発表した後のこと
であった。一般相対性理論によって,重力を時空の幾何学として扱うことが可能
になった。物体が存在することで重力が生じ,その重力によって周りの時空
が歪められる。光は時空に沿って道筋が最短になるように伝播するので,時空が
曲がっていれば光路も湾曲することになる。Einsteinは一般相対性理論を使って,
光が天体の重力によって曲げられる角度はNewtonの重力理論で得ら
れる角度の2倍(
)であることを予言
した
(2)。
これを受けて,Eddingtonは1919年の皆既日食の際に太陽の近
くに見える天体の位置を正確に観測し,太陽の影響がないときの同じ星の位置と
の比較から,
[秒角]のずれを検出し
た。この観測によって,一般相対性理論の正しさが立証された。
また,Eddington (1920)は,光の軌道が曲がれば,光源からの光は2つの像として観 測される(多重効果)ことを示唆している。更にChwolson (1924)は,一方の像は元の 光源より明るく,他方は暗くなること(増光効果)を指摘した。Einstein (1936)は光 の湾曲によって生じる2つの像の明るさが変わること(重力がレンズのように光 に作用する,という意味でこれを「重力レンズ効果」といい, この効果を生じさ せる重力源である天体をレンズ天体という)を導き,これを定式化している。た だしこの時点でEinsteinは,レンズ天体が星のような天体では光路の曲がる角度 も小さく,重力レンズ効果が現れる現象は非常に稀にしか観測されないであろう と悲観的であった。これに対して,Zwicy (1937)によって,太陽のような星で はこの現象は稀かもしれないが,系外銀河(アンドロメダ大星雲のような我々の 銀河系の外に存在する銀河)のような重い天体ならばこの効果が実際に観測され る可能性は高い (3)ことが指摘された。
実際に重力レンズ効果の認められる天体が発見されたのはZwicy から約40年後のことであった。Walsh et al.はQ0957+561A,Bという2つ のクェーサー(準星)のスペクトルが殆ど一致していることから,これらは同一の 天体が重力レンズ効果(多重効果)によって,2つの像として見えているだけであ ること見出した(Walsh et al., 1979)。Q0957+561A,Bのように,1つのクェーサーが複 数の像として観測されるクェーサーは多重クェーサーと呼ばれている。多重クェー サーの他にも,観測者-レンズ天体-光源が一直線上に並んでいるときに現れる Einstein リング(光源がリング状に見える)と呼ばれる天体(例えば, MG1131+0456: Hewitt et al., 1988)や,光源の形が非常に大きく歪んだ巨大アークと呼ばれ る天体(例えば,A370, CL2244-02: Lynds & Petrosian, 1989)もいくつか観測されている。 Walsh et al.の発見以来現在までに約80の重力レンズ効果を受けている であろう天体が発見されている (4)。
現在までに発見されている約10,000個のクェーサーの中で,多重クェーサーを見 極める条件は何か?これは非常に難しい問題である。現在のところ次の点をクリ アしていれば重力レンズ効果であると判断されている。
表 1. 各階層における光の曲がる角度 | |||
天体 | 質量 [g] | 半径 [km] | 曲がる角度 [秒角] |
木星 | ![]() |
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0.0175 |
星(太陽) | ![]() |
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1.75 |
銀河 | ![]() |
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銀河団 | ![]() |
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