≡福島お達者くらぶだより≡
2021年 4月 1日発行 通算 第99号
昨年6月からミーティングを蓬莱学習センターで行うようになりました。この施設は(公民館の名前になっている市町村も多いと思います)本来は一つの行事には一部屋しか貸し出さないのだそうで、最初は借りている部屋で家族ミーティングを行い、その外の軒下で本人ミーティングを行っていました。しかし秋になって寒い季節は本人用にもう一部屋を使わせてもらえるように配慮してもらってきました。本当にありがたいことでした。
しかし、これからの暖かい季節にはまた一部屋しか借りられないことになりました(この施設を使いたい団体も多いのです)。それで、本人ミーティングをまた軒下に戻します。
借りている部屋も4月からはエアコンが使えないので、本人も家族も、少し寒い日には温かい服装で来てください。
新型コロナウイルスの感染が拡大しています。このウイルスについて、正確な知識を知りたい方は、ホームページに解説を載せておきましたので、開いてみてください。
Withコロナ時代の不安
現代は社会の状況や環境が矢継ぎ早に変化していって、身の回りの様子も安定せず、誰もが不安を抱えて生きています。そこに新型コロナウイルスの感染拡大という不安要因が加わった昨年、減少を続けていた自殺者数が十数年ぶりに増加しました。その自殺のことを考えてみたいと思います。
日本の1970〜90年代の自殺者数は年間2万〜2万5千人でした。それがバブル景気の崩壊によって1998年に急に増えて年間3万人を超え、その状態が10年以上続きました。ピークは2003年の34,427人です。自殺者は従来から男性の方が多く、女性の自殺者の1.6〜2.1倍だったのですが、年間3万人を超えていたころはその差が拡大して、2.3〜2.6倍になっていました。経済状況が男性の方に強く作用してしまっていたのでしょう。
そこで政府は自殺予防の対策に本腰を入れて、2011年には大震災・原発事故という大災害・事故があったにもかかわらず、その翌年には3万人を切って、その後も自殺者は明確に減少するようになり、2019年には20,169人にまで減少しました。(ただ、福島県では原発事故から数年間は減少が止まってしまっていたのですが。)
それが、昨年(2020年)はコロナ禍の中で21,081人と、912人の増加でした。特に特徴的なことは、男性の自殺者は前年よりも少し減少したのに、女性の自殺者が増えたのです(といっても男性の方が多いのですが、男女比はちょうど2倍になりました)。特に20歳代、10歳代の人たちの自殺が前年よりも20%近くも増えました。
なぜ女性の自殺が増えたのでしょうか。その前に、なぜ従来は男性の方が多かったのでしょうか。
自殺する人のうち、うつ病は別として、特に中高年で自殺してしまう人は圧倒的に男性に多い。それは、例えばもう50年ほど昔ですが、男の象徴のような三船敏郎という有名な俳優が出てきて「男は黙って**ビール」とビールビンをどんとテーブルにおくコマーシャルがあった。これももう30年ほど前、やはり男の憧れである高倉健が出てきて、ぼそっと一言「不器用ですから・・・」と言う、そんなコマーシャルに象徴されるように、男は昔からべらべらしゃべらないものだと刷り込まれてしまっていて、自分の苦しさを誰にも伝えられずに、黙って死を選ぶしかなくなるからです。
一方、女性はだいたいおしゃべりな文化を持っていて、友達と1時間でも2時間でもしゃべり続け、そこで「そうだね、そうだよね」と感情を共有してもらえるから、死なずにすみ、生きていけるのです。
昨年は、それが困難になってしまったことが女性の自殺の増加につながっていると考えられます。外出、特に飲食の自粛で、友達と井戸端会議的な雑談がしにくくなっている、そのために気分転換が難しくなっていることが大きいのです。特に結婚している人の場合、テレワークや学校の休校で夫や子どもたちがずっと家にいて、一人になる時間を持つことができないと、気分が煮詰まってしまいます。食事の用意をもっぱら一人で行っている女性の場合は特にそうでしょう。
それだけでなく、夫(や付き合っている人)もいらだちを募らせることによって、DVが多くなっている、そのために逃げ場がなくなって追い詰められてしまう、そのような事例が多数報告されています。国民に一律に10万円が配布されたとき、それは世帯主の口座に振り込まれてしまい、DVから逃れて暮らしている人には届きませんでした。
このように昨年、女性の自殺者の増加(それも若い年齢で増えた)と呼応しているのだと思われるのですが、これを書いている私(香山)の関係する摂食障害の人たちでも、昨年の9月に過量服薬が立て続けに4人も起こりました。(幸い致命的になった人はいなくて、それがきっかけになってお母さんとの関係が改善した人たちが多かったのですが。)私の周りでは過量服薬は10年ほどの間に2件しかなかったのに、これは衝撃でした。
昨年は過量服薬にとどまらず他にも、止まっていた万引きを再発してしまった人たちがいたり、別の犯罪に巻き込まれてしまった人もいました。
なぜこのようなことが立て続けに起こったのかは、明確だと思います。春先から新型コロナウイルスの感染拡大で外出や集会の自粛が叫ばれて、気分を晴らす手段がないまま、半年あまりの間に不安が蓄積して行っていたのでしょう。私自身も、その秋のころに自分の仕事をどうしていくのかなどに不安をためていて、抗不安薬や睡眠薬の助けを借りていた日々もありました。
それでは自殺せずにすむためにはどうするか。井戸端会議の雑談でもいいけれど、心に溜まっていく苦しい思いを、吐き出して話せる場所がほしい。それも、そんなことを話したらどう思われてしまうかといった心配なく。お達者くらぶのミーティングはそのような場所として利用できます。1ヶ月に1回だけなのが申し訳ないけれど、他にもぜひそのような場所や相手を見つけていってください。
そこでは、感情を吐き出すだけでなく、その背景にある自分の人生の物語をトツトツとでも話すことが大事なのですが、そのことはまたの機会に。