≡福島お達者くらぶだより≡
2021年 1月 1日発行 通算 第98号
新年に当たって
昨年はコロナ禍に揺れた、たいへんなままの年越しになりました。私たちの福島お達者くらぶも、創設以来ずっとミーティングに使わせてもらって来た福島県立医大の校舎を使えなくなってしまい、月に一度だけとは言え一度も欠けずにやってきたミーティングを、(4月はとりあえず満開の桜の林の中で行いましたが)5月はついに全国の自粛要請のために休会になってしまいました。しかし幸いなことに、医大の近くの蓬莱学習センターを使わせてもらうことができるようになって、6月には再開できました。
福島市では学習センター(町によっては公民館の名前の施設)は毎月10日に翌月の予約に行く必要があって、どの部屋を借りることができるかは早い者勝ち、必ず使えるとは限らない制度になっています。しかし、蓬莱学習センターでは管理を担当している方がお達者くらぶの意味を理解して優先的に確保していただいています。そして、福島市の教育委員会がお達者くらぶを文化的に意味のある団体と認定していただき、部屋の使用料金を免除してもらっています。本当にありがたいことです。
今年もミーティングを変わらずに続けていけるように、すべての会合の自粛要請などが再び起こらないように祈るばかりです。
ともかくも、今年は皆様にとって落ち着いた年となるようにと念じます。
家族ミーティングの役割と意味について
摂食障害に苦しむ人たちの生きづらさの根源には性格として根付いてしまっている自己評価の低さがあり、それには子どもの頃に育ってきた家族環境が大きく関係していて、本人の責任ではないと言えます。しかし、家族もまた傷つき、苦しんでいることも考えなければなりません。
そのような理解が進んできて、摂食障害の家族会が少しずつ広がってきていて、全国に50ほどの家族会が活動していると報告されています。その家族会のうち、家族や回復した本人など当事者が中心となって運営している「自助グループ」が約40%、援助職の専門家が運営している「サポート・グループ」は約60%とのことですが、それぞれの会の活動形態は、自助活動、治療目的の教育的活動、それらの混合など、会によって異なっています。
私たちの「福島お達者くらぶ」は、その分類でいくとサポート・グループですが、会の特徴は、地方都市には摂食障害グループのなかった1992年の設立当初から、本人ミーティングと家族ミーティングを隣り合った部屋で並行して行っていることです。本人ミーティングは自助グループをモデルにした言いっぱなし・聞きっぱなしを原則としてきましたが、それを少し変更して対話型にしました。一方、家族ミーティングでは当初から援助職スタッフが司会して、参加者が話すことに対して励ますことを中心にコメントすることが多い形でやってきています。
このように、私たちのミーティングは自助活動ではありませんが、家族ミーティングの方も治療や教育を目的とはしておらず、あくまでも参加者が自由に発言することで楽になっていくことを目的としています。それは“自助的”ミーティングと呼べるかと思います。
日本摂食障害学会の学術集会で発表されているミーティングについての演題は、大多数は援助職者による家族ミーティングについての実践・経験です(この学会はもともとが援助職者の集まりで、本人や家族の参加はごく少数ですから、それは当然でしょう)。その家族ミーティングは、病院を受診した本人の家族や県・市の保健関係の募集に応募した人たちに対する教育的な集まりで、数回から10回くらいのプログラムで構成されています。
そのようなプログラムによる教育的なミーティングと、お達者くらぶのように長年にわたって続いているグループでは、サポートグループであっても何が違うでしょうか。その面からお達者くらぶミーティングの意味を考えたいと思います。
私たち福島お達者くらぶのミーティングでは、1〜2回の参加で終わる人たちも多いですが、繰り返して参加される人たちもたくさんいます。その繰り返して参加するのはどういう意味があるのでしょうか。それを私たちは家族の人へのインタビューで明らかにした研究を紹介したいと思います。
その研究は学術論文としてまとめ、数年前に専門分野の雑誌「アディクションと家族」(第30巻、2015年)に掲載されたのですが、これは私たちスタッフがお達者くらぶを研究のために利用させてもらった唯一のケースです。十分な倫理的配慮がなされていること、科学的な態度で解析を行うことなどを、大学のしかるべき委員会で認証を受けて行いました。
ちなみに、この研究の中心になったのは、当時、家族ミーティングのスタッフをしていた広川さんです。彼女は今、臨床心理士として精神科病院でしっかりとした仕事をしています。
この研究の目的は、摂食障害の子をもつ母親(ミーティングには父親の参加もあるのですが、できるだけ均質な集団とするために母親に限定しました)の心理状態が、自助的ミーティングに参加する中でどのように変化していくのかを明らかにすることでした。その具体的な変容過程と、変化をもたらした要因について、1年以上にわたって10回以上ミーティングに参加した人たちのインタビュー調査により追究しました。インタビューに応じていただいたのは、子どもが完全な回復には至らないまでも新たなステージに踏み出せたことで母親自身が楽になってきていて、この研究が本人や家族の状況に影響を与えることはないと判断された人たちです。
インタビューで聴かせていただいたお話しは事前に承諾を得て録音し、あとで再生して逐語録を作成しました。その中で、複数の方が同じ内容のことを話されている言葉を拾い出し、それらがどのようなグループに分かれるかを考えて分類し、その関係を考察していきました。その結果で明らかになったミーティングの意味の大筋を紹介します。
まず大事なことは、子どもがなぜ、何を苦しんでいるのかを理解できていくことです。それによって子どもとの関係が良くなっていきます。それは援助職者が行う教育的なミーティングでも得られますが、お達者くらぶのような自助的ミーティングでは、他の参加者が話されることが身にしみて伝わることで、より強いインパクトとなります。
しかし、このミーティングのもっと大きな意味は、誰にも話せずに心の中で渦巻いて苦しんできたことを吐き出して楽になることです。それを他の参加者やスタッフが共感を持って受け止めてくれるので、それまで自分一人で孤独に苦しんできたけれど、同じ感覚を持つ仲間の人たちがいる、ということが心を大きく安らげてくれるのです。
しかし、ミーティングの意味はそれにとどまりません。繰り返して参加していると、問題は子どもでなく、親である自分の方にあったのだということがわかってくる。それによって、様々なこだわりに固められていた生活から解き放たれて、楽に生きていけるようになります(それを見ている子どもも、うんと楽になります)。それは、親の年になっても得られる、人間的な成長です。
この成長は、繰り返して参加することによってのみ可能になります。そのことをスタッフは感じていたのですが、それがこの研究で裏付けられました。子どもが摂食障害に苦しんでいる家族の皆様は、ぜひ、繰り返してミーティングに参加していただければと思います。