福島お達者くらぶだより

 2020 1 1日発行 通算 94

 

明けましておめでとうございます。今年が誰にとってもよい年であるようにと祈ります。

 

この号では、昨年秋に行われた学会に香山が参加して、聴いたことを報告したいと思います。

 

日本摂食障害学会学術集会で印象に残ったこと

 昨年のこの学会は1123日、東京の西部、小平市にある国立精神・神経医療研究センターを会場にして行われました。ここは精神科と神経内科の研究所+病院ですが、このセンターの精神保健研究所の中に摂食障害全国基幹センターが置かれ、そのセンター長である安藤哲也先生が今回の集会長でした。集会のメインテーマは「摂食障害医療の課題−アンメットニーズにどう応えるか」でした(アンメットunmetというのは「要求などが満たされていない、目標などが達成されていない」という意味です)。

 

 そのメインテーマの題名のシンポジウムも行われ、発表者は医師一人と、精神保健福祉センター(浜松市)の家族支援の担当者、家族会の代表者、就労支援施設を立ち上げた回復した本人、それに厚生労働省の摂食障害担当者でした。この学会のプログラムに医師などの専門職以外の人たち、それも本人や家族が招かれたのは画期的だったと思います。それぞれの立場で、摂食障害を従来の医療ではないところで支援を図っている、その状況が話されました。

 その家族会は「ポコ・ア・ポコ」という千葉市から始まった会ですが、今は横浜、相模原、水戸などでも定期的なミーティングを、それ以外にもいろいろなところで相談会などを行っているとのことです。それだけ必要としている人たちが多いのでしょう。本人の人は愛媛の松山市で、回復途上にある人たちが通える場所と仕事の経験を積んでいくことのできる事業所のNPO法人を立ち上げ、運営されています。特別な支援のない状態で頑張ってその活動を継続している、それは並々ならぬ努力なのだと思います。

 厚生労働省の人は(部署は社会・援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課 心の健康支援室とのこと、どういう組織割りになっているのでしょうね)、厚生労働省が予算を支出している摂食障害全国基幹センターを中心に、全国に4カ所(仙台、千葉、浜松、福岡)に置かれた地方の摂食障害治療支援センターの活動とその成果ばかりを話していて、それで良しと思っているようでした。私はそんなことで支援は十分と思ってもらっては困ると強く感じました。

 そこで私は質疑の時間に手を上げて、「民間組織である日本摂食障害協会も、発表のあった就労支援施設も、各地にグループを展開している自助グループも、みんなお金に苦しみながら活動している、民間団体からも資金援助を申請できるようなシステムを中央官庁として考えるべきだ」と発言しました。実現はなかなか難しいと思いますが、後で何人かの人たちに「よく言ってくれました」と声をかけられました。

 ちなみに、福島お達者くらぶは大学の部屋を使わせてもらっているし、定期的にお金がかかるのは月に1080円の電話代だけ、スタッフはボランティアみたいなものだけれど自分たちが得られるものが大きいからこの仕事をやってきているので、ミーティングに来た人たちに出してもらっている少額のお金で十分にやっていけています。不定期にはセミナーの開催などにも多少の費用が必要なのですが。

 

 特別講演で印象に残ったのは「摂食障害とトラウマ」という加茂登志子先生のお話でした。加茂先生はPCITParent-Child Interaction Therapy親子の交流・相互作用を図っていく治療でしょうか)を中心に活動しておられる医師です。精神医療においてはトラウマ(心の傷)の視点から統合されたサービス(トラウマインフォームド・ケア)を提供することが必要であり、摂食障害の治療にもトラウマを考慮しなければならないというところからの講演でした。

 トラウマとなる事象に出会うとFight(闘争)Flight(逃走)Freeze(凍結)という三つののいずれかの急性ストレス反応が起こるのですが、1ヶ月以上それが残っていくとPTSD(心的外傷後ストレス障害)に発展していき、長期に苦しむことになります。摂食障害では気分や認知の変化が起こり、否認、回避、解離(脳機能の統合が破綻し、一部分を切り離すなどする状態)といった状況がぐるぐる回るけれど、これに過覚醒(眠れない、いつもイライラするなど)と再体験症状(フラッシュバック)が加わっていると、それはPTSDの診断基準に合致し、そこでは安全・安心・安眠を確保していかなければなりません。

 その治療には、「言葉になりにくいものを言葉にしていく」ことが役立つと話されていて、それこそが福島お達者くらぶの目的です。言葉にしていくことによって、なぜ自分が苦しんでいるのか、心の中に渦巻いて苦しさを起こしている思いの由来を理解でき、それを納得することによって先に進んでいけます。そしてそれをミーティングで話して外に出すことができると心が少し軽くなるし、それを受け取ってもらえる人と心を通わせることができて、少しずつ楽になっていきます。

 

 一般演題も聴けるだけ聴きましたが、家族療法や家族教室の報告がいくつかありました。いずれも家族(特に母親)への働きかけがその心理状態に、ひいては本人に有意義に作用するといったことです。それらの活動は数回・数ヶ月の取り組みであることが多いのですが、そのような教育的なプログラムによって子どものことは理解していけるし、仲間の存在に慰められるというような報告でした。

 そのように有意義だとしても、そのような短期間の活動では、お母さん自身が自分の抱えている問題に気づいていって人間的に成長して行くところには至りません。それにはミーティングなどへの繰り返しての参加が必要であることを、私たちは福島お達者くらぶに繰り返し参加してきたお母さんたちのインタビュー調査で明らかにしてきています。

 それで私は質疑のところで、数回のプログラムの後にグループミーティングを続けていくことなどの必要性を訴えました。その必要性はみんなが認めたけれど、今回の報告の医療施設では行われていませんでした。せめて自助グループを紹介するくらいはすべきかと思うのですが、医療関係者は自分の守備範囲のことしか考えない傾向があるのではないかと思いました。

 

 私はこの学会に毎年でも参加したいのですが、昨年はお達者くらぶのミーティングの日に重なって(しかも場所が沖縄で)行けず、来年は大阪なのだけれどやはりミーティングの日に重なるために迷っています。非常に重要なシンポジウムなどが行われるなら、ミーティングを他のスタッフにお願いして参加すべきかと思っているのですが。

 この学会は守秘義務を課されている専門職の人(およびその勉強中の学生)しか参加できない規約になっているのですが、自助グループの人たちでもいろいろな団体名や役職名を付けて参加する人たちがいるようになってきています。お達者くらぶのメンバーでも参加してみたい人がいれば、スタッフなど適当な名目を付けますので、連絡ください。