福島お達者くらぶだより

 2018 7 1日発行 通算 88

 

 まだ梅雨が明けていないと思うのに、真夏日が続いたりして、体もたいへんかと思います。皆様、水分補給を十分にして、熱中症で倒れたりしないようにしていきましょう。

 この号では、先月の後援会の報告をさせてもらいます。

 

講演会を行いました

 この会報などでもお伝えしていましたように、6月9日(土曜日)に日本摂食障害協会と福島お達者くらぶの共催で、摂食障害講演会を行いました。

 福島お達者くらぶでは、以前は3年毎くらいに公開のセミナーを行って、外から招いた講師やお達者くらぶスタッフの講演、また本人や家族の体験談を聴かせてもらってきました。しかし、大震災などもあって、この10年ほどはそのような活動を行うことができませんでした。

 今回、それを行うきっかけとなったのは、2年前に日本摂食障害協会(この病気に取り組むには、医療面だけでなく、社会的な活動も必要だとして立ち上げられた社団法人)が設立され、昨年から地方都市での講演会を行うようになったことです。そのことを知って、その中心になって活動している先生にそれを福島でも行ってもらえないかと尋ねたところ、協会として「やりましょう」ということになり、そこでいろいろと交渉した結果、福島お達者くらぶの設立25周年記念を兼ねて共催で行われることになったものです。

 ちなみに、福島お達者くらぶは昨年の11月で創設25年となり、それは東京・大阪以外の地方都市としては他にはない長い歴史となっています。その記念イベントを行うには、秋は日が短くて終わったら真っ暗になってしまうから春になったら行おうと考えていました。それが新しい年度の行事の準備にかかる時間も考えて、日が最も長い6月になりました。梅雨に入る前に行いたいと思っていたのですが、当日は良い天気で、福島の梅雨入り宣言の前日だったのは非常に幸いでした。

 

当日のプログラムは次のとおりです。

 基調講演: 西園マーハ文(精神科医 日本摂食障害協会理事 白梅学園大学教授)

      「摂食障害治療の鳥瞰図と虫瞰図〜回復の道筋を見つけよう〜」

 シンポジウム「いろいろな立場から見る摂食障害」

    香山雪彦「福島で摂食障害の医療とサポート活動にかかわってきて」

     家族 「家族のおもい〜苦しみと喜び〜」

     本人 「回復とは、愛されること愛すること」

 フリーディスカッション

    基調講演者、シンポジスト、会場の人たち

 

 講演内容の紹介は後で書くとして、当日の講演会の様子を書いておきます。

 このような講演会活動などのために、日本摂食障害協会は日本財団から助成をもらっていて、講演会を行うと参加者数の報告を求められています。それで、昨年度の他の都市での講演会は予約制の参加で行われました。しかし、それでは参加者が少なくなるだろうと考え、誰でも来やすいように、予約不要で行いました。その代わり、参加者全員に参加票を出してもらうことにし、しかしできるだけ簡単なように、それには年齢(10歳ごとの年代)と立場(本人、家族、援助職など)だけ丸を付けてもらうことにしました。

 それで参加者数を正確に知ることができたのですが、講演を聴くために参加した人は116人(スタッフを入れると125人)でした。これは昨年度の講演会では80人くらいだったのに比べてかなり多く、日本摂食障害協会の方からは「大成功でした」と言われました。

 ただ、以前の福島お達者くらぶのセミナーでは新聞社から取材が来ていたのですが、今回は、この講演会のことを事前にかなり大きく記事にしてくれていた福島民報社も民友新聞社も来ていませんでした。それは、ちょうど天皇陛下の福島県訪問に時間的にもぶつかってしまったからです。高速道路の規制も強かったため、講演会に参加したかったいわき市の人が来れませんでした。

 参加者の立場では、一番多かったのは摂食障害者の家族で42人でした。摂食障害者本人は24人で、支援・援助職者は24人、教員は11人、その他が15人でした。家族が一番多かったのは、一家族が複数で参加した人たちが多かったためで、家族数で言うと本人と同じくらいの数だったのではないかと想像されます。もちろん本人だけ、家族だけの参加もあったのですが、一緒に来た人たちもかなり見受けられました。

 年齢分布は、家族が多かったことから中高年が多いのですが、30歳代が25人、40歳代が27人、50歳代が24人、60歳代以上が20人とほぼ均等にばらつき、一方で20歳代は8人、10歳代は5人でした(年齢に丸を付けていなかった人がいるので、総数は上と合わないのですが)。

 このように集計して強く印象に残ったのは、摂食障害本人の年齢分布です。10歳代、20歳代は3人ずつでしたが、30歳代が最も多くて10人、さらに40歳代が6人に50歳代が2人もいて、明確に見えた高齢化が衝撃的でした。若い人たちの摂食障害が少なくなっているのではないのですが、高齢の人たちの方が必死に出口につながるものを求めて参加してきたのかと想像しています。

 

 基調講演をしていただいた西園先生は、英国エジンバラ大学に留学されたときに摂食障害治療の取り組みに感銘を受けられて、この分野の診療に取り組まれるようになりました。しかし、摂食障害だけでなく、出産後のメンタルヘルスなども含んだ、女性のライフサイクルを広く視野に入れた治療・研究、そして学生の教育や社会的な活動に取り組んでおられます。

 講演では、摂食障害のことを、空の上から全体像を眺める鳥のような鳥瞰図の視点と、葉っぱや花に近づいたり直接に触れたりする虫のような虫瞰図とも言うべき視点の、その両方から話されました。

 鳥瞰的には、自分の過去を振り返って変化してきた自分を認識し、それを道案内として未来の予想図を少し上から見渡してみよう、その際には多くの人たちの経過を見てきた治療者による道案内が役立つ、と話されました。また、外国でも日本でも2~300年前から摂食障害の報告があるけれど、特に何も治療などせずに家で生活しながら良くなったことが書かれていたりする、しかし時代が変わって、本人に家族・治療者の協同作業が必要であるとのことです。

 虫瞰的には、本人にしかわからない身体感覚を大事にして、例えば拒食症(神経性やせ症)で入院しているようなとき、「手足が温かい」「手足の血色がよい」「階段の上り下りがしやすい」などのちょっとした変化に気づこう、そして、一口食べたからと言って脂肪が急に付くわけでない(逆に、体重を増やすのは思ったより大変である)ことがわかれば、とのことです。いずれにしても、「一発逆転」は難しいから、どこに元の自分がいるか、どこが「長引いたことによる問題」なのかを考えてみて、一歩ずつ進んでいきましょう、と提言されていました。

 

 シンポジウムは福島県に在住する医師、家族、本人が、それぞれの立場で経験してきたこと、考えていることを話したのですが、それぞれきちんと準備されていて、20分ずつと予定していた講演時間をきちんと守って話されました。医師(香山)はお達者くらぶの活動のこととふだんからこのお達者くらぶだよりに書いて来たようなことを話したのですが、家族、本人の話したことは強く印象に残ったと、西園先生からもほかの参加者の人たちからも聞きました。

 家族として話していただいたのは、3年近くほとんど休むことなく毎回のお達者くらぶミーティングに参加してきたお母さんです。長く過食・嘔吐に苦しんできた娘さんを理解できず、苦しさを訴えられても「私だって頑張ってやってきたのよ」と言ったりしていて、そのため娘さんとは断絶状態だった、しかし他の家族の人たちの話しなどから娘さんの抱えている問題を理解できてきて、しだいに娘さんへの対応が変わってうけとめられるようになった、そうしたら娘さんが話しかけてくるようになり、またご飯の準備をしてくれるようになったりして、温かい親子関係ができてきてうれしい、といった経過を話されました。

 摂食障害に苦しんだ経験者の本人は、「私が私であること」にこだわって、現在の自分として語りたいと思うからと、講演会では本名を名乗って話したのでした。時間が限られた講演では、人生の中で経験してきたさまざまに劇的な出来事などではなく、回復のことを中心に話してくれたのですが、「子どもの頃に無条件に愛される経験をしてこなかったため、人を愛することも、自分自身を愛すこともできずに、食べ物に愛を求めました。自分にとって食べ物は、『満たされない愛』そのものだったのです。食べ物は人と違い、裏切ったりしません。食べ物は、必要な時に、必要なだけ私を満たしてくれました。吐き出したとしてもいつも傍にいてくれたのです。しかし、『満たされない愛』を『食べ物』で埋めるのではなく、『人の愛』で埋めることができて、それを繰り返し実感できるようになって、はじめて食べ物は必要なくなりました。」とのことを、具体的な生活のエピソードを交えて話されました。

 

 フリーディスカッションには40分ほどの時間を残すことができました。最初は会場からは質問などは出にくいもので、講演者間の質疑から始まったのですが、その後は会場からいくつも問いかけの発言が出て、それぞれ講演者が考えを述べました。そのようにして講演会を無事に終えることができました。お達者くらぶスタッフもうれしく思っています。

 

 参加していた人の中に、お達者くらぶのミーティングに参加したいと伝えてきた人もいます。そのような人たちが加わって、どんなミーティングになるでしょうか。以前からのメンバーの皆様も、ぜひまた参加してください。