福島お達者くらぶだより

2016 7 1日発行 通算 80

 

お達者くらぶだより20

 お達者くらぶだよりが80号になりました。3ヶ月毎に、1年に4号を発行してきましたから、20年間ということになります。お達者くらぶが始まったのは1992年の秋でしたから、まもなく満24年になりますが、その創設から数年したところで会報を出そうということになって発行するようになったものです。今は回復してミーティングに参加することがなくなった人たちからは、この会報で今もちゃんとお達者くらぶが活動していることを知って安心してもらえるようです。

 最初は印刷して郵送していたのですが、印刷の手間はまだしも、それを折って封筒に詰めるのに相当に人手と時間がかかること、郵送に費用がかかること(そのお金がなくなりそうになると郵送を希望する人には振り込んでもらっていたのですが)、そして何よりも、香山が医大を退職するために印刷機が使えなくなること(コピー機ではすごくお金がかかってしまいます)といった理由から、現在はメールマガジンになっています。これを携帯で受け取る人の中にはかなり少ない字数の制限の人もいるので、何通にも分けて送ることになっています。まとめて読むには、福島お達者くらぶのホームページにも掲載されていますので、過去の号を読みたい時など開いてみてください。

 内容は、会報を出そうと提案した責任で編集を担当してきた香山が書くことが多いのですが、メンバーの人たちの手紙なども載せてきました。これからも近況や考えていることを(できたらメイルで)送ってください。郵送の場合は、電話かメイルで尋ねてもらえば郵送先をご連絡します。

  

日本摂食障害協会の設立について

 5月の終わり頃、東京で医師とともに摂食障害の治療と家族会の運営にかかわっておられる臨床心理士の方から、家族会でもあるお達者くらぶあてに、次のような社団法人日本摂食障害協会の設立発表会についてのメールをいただきました(主要な部分です)。

 

【お達者くらぶあてに届いたメール】

 摂食障害協会が一般社団法人となりました。(当面のHP→ http://www.jafed.jp/
尚、私は今はこの会における正式な立場は有りませんが、今回の設立発表会の企画運営の補助や家族会の皆様への広報をさせて頂いております。
 この会は、摂食障害の治療環境の向上を目指したもので、本来なら家族会や患者会、心のある回復者の方々が発起人に入って頂くのが理想だと思いますし、海外では実際そのような動きが生まれております。
 現在の協会の理事の先生方も、本来ならそういう形で会を発足させたかったようで、いろいろご尽力されてましたが、各方面との調整や資金集めに苦労し、また皆さんご多忙の上、診療などの合間のボランティア活動ですのでなかなか実現しませんでした。
 そんな中、衆議院議員の鴨下一郎先生(筆者註:心療内科医です)のお力添えで、社団法人化できるチャンスがおとずれ 今回、ともかく名前と組織だけは社団法人になりました。登記の関係で、とりあえず、医師の先生が現在の理事となっております。
 しかし、実態は運営会社はございますが、理事の先生はまったくのボランティア、もしくは持ち出しで活動し、私含む有志のお手伝いの方と、手探りで会の運営をし始めたばかりです。活動資金も今回ミュゼ(筆者註:ミュゼプラチナムという脱毛を中心としたエステの会社)様からご寄付をいただいたのみで、これから集めていかなくてはなりません。今後は、家族会や患者会や有志の皆様と、本当に患者さんの治療環境の改善に役立てる会にして行きたいと考えております。

 そして、家族会の皆様に私からのお願いです。どうか、摂食障害協会の活動にお力をお貸し下さい。治療環境の改善には、ご家族の力が絶対的に必要です。
 今回、何人かの方から、なぜ協会の理事にご家族や当事者が入っていないのかというお問い合せをいただきました。 ぜひ、そういったお声をあげて下さい。

そして、可能でしたら、ぜひ協会の活動にご参加、ご協力下さい。

専門家の方は、家族会にご参加のご家族にお伝え願います。

 今回は6月2日の世界摂食障害アクションデー(*)に合わせるため、あまりに急なことで調整が間に合わず、ご家族にご登壇いただくことはかなわないかもしれませんが、その中でも、ご家族の力とご協力の大切さをできる限りお伝えしたいと思っております。

(* http://media.wix.com/ugd/2e41d5_6aeb461e13914f95bc0bd07a67806591.pdf

他にも何か疑問やご要望があれば、ぜひお教えくださいませ。

 また、同日、鈴木高男さま主催で、全国の家族会ネットワークがございます。現在、会の後援になっていただくよう依頼中です。そちらにも是非ご参加頂き、協会へのご要望や、ご家族として協会の中でどのような活動をなさりたいか、話し合っていただければと思います。<家族会ネットワークの連絡先 pokoapoko@mbh.nifty.com

 私自身、今後もご家族と協会とをお繋ぎする役割を果たしていきたいと思っております。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

 上のメールが届いたのが6月2日の「一般社団法人 日本摂食障害協会 発足発表会」の一週間前だったのですが、当日は私(香山)が勤務時間を自由に調節できる日だったので、どんな会なのかを見るために東京に行ってきました(家族会ネットワークの集まりにも出てきました)。

 日本摂食障害協会は理事長の生野照子先生(*)を含めて7人の理事は全て医師、その中で精神科医は1人だけであとの6人は内科・心療内科医です。これは、協会設立を考えてきた日本摂食障害学会が心療内科医を中心に集まった研究会から発展してきたものであることを反映しているのだと思われます。学会は今は精神科医も増えているだけでなく、心理士、養護教員、栄養士など、いろいろな職種の人たちが入ってきて発展しているのですが、今も古くからのメンバーの心療内科医が力を持っているのでしょう。

(* 生野先生は長年にわたって大阪で摂食障害の治療に当たるとともに、臨床心理士養成の大学教授を務め、また「あゆみの会」という日本で最初の家族会を立ち上げ、さらに2000年代に入った頃に「摂食障害ネットワーク」という組織を作って毎年「摂食障害フェスティバル」というイベントを開催してこられました。このフェスティバルは当事者も家族も専門家も対等の立場で集まることを目的としたもので、お達者くらぶからも何人もの人たちが参加してきたのですが、9回目まで行われたあと様々な困難から行われなくなり、その発展した形として摂食障害協会の設立を訴えられてきました。)

 その協会設立発表会での理事長挨拶としての講演の中で、生野先生は摂食障害に苦しむ人たちを取り囲む援助組織として自助グループネットワーク、家族会ネットワークとこの協会を3つの矢印で示し、協会を専門家によるサポーターとして位置づけられました。しかし私はあとで生野先生とお会いしてその考えに対する異論を伝えました。医師が中心となって作る協会と並べるには、自助グループも家族会も力が弱すぎる、それでも家族会はとりあえず家族会ネットワークが発足したけれど、(私のところには全国の自助グループからの情報が折々に送られてきますが)自助グループはそれをまとめて多少なりとも社会的・政治的な力となりうるネットワーク組織(*)を作ることはまだ困難と感じざるを得ない状況で、とても協会と並べられるような組織にいつになったらできるのか目処が立たないと考えるのです。

(* 例えば、薬物依存の人たちの家族会である「全国薬物依存症者家族会連合会」は、依存症者自身の「ダルク」とともに、毎年フォーラムという勉強会を開催し、また内閣府・厚生労働省・法務省と折衝を繰り返して、政府の「薬物乱用防止新5カ年戦略」の制定の際に依存症者や家族の要望を組み込むことができました。また、「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」も各県に支部の会を作るように働きかけて毎年そのどこかで大会を開催し、さらに厚生労働省や地方行政に働きかけて様々な支援を実現していっています。なお、「KHJ」は発足時は「強迫性障害・ひきこもり・人格障害」の頭文字だったのですが、今は「家族・ひきこもり・Japan」です。)

 

 それでは摂食障害の組織はどのようなものにするべきか。この新しい協会の中に自助グループが集まれるような部会(そして家族会の部会)を作るべきでないか、というのが私の考えです。協会が何かのイベントを行う時には、以前に行われていたフェスティバルのように、どの立場の人も対等に参加でき、それぞれの部会もそれぞれの企画を持って参加できるようになれば、と思うのです。

 この私の考えには何人もの人たちが賛成してくれましたし、生野先生もよく理解してくださいました。しかし、将来はそのようなあり方を目指すとしても、とりあえずは今の形で協会を発足させることになったことについて、ある人が裏の事情を次のように伝えてくれました。「医師たちの中には患者団体・自助グループが入ってくることを強く嫌う人たちがいて、とりあえず医師たちがまとまって協会を発足させ、厚生労働省に働きかける力を持つためには今の形しかなかったのだ」というのです。その医師たちは何十年か前に精神医学の世界の最も中心である日本精神神経学会が患者団体の乱入によってまともな学会活動ができなくなったことを覚えていて警戒するのでしょう。また、古くから摂食障害の治療に取り組んできた医師たちの中には、摂食障害が日本でも広がりだした頃の高い感受性を持った人たち(自助グループはその人たちによって作られてきました)が医師主導の治療に反発して鋭く批判してきたことへの嫌悪感もあるのかもしれません。

 とりあえず今の形で摂食障害協会を発足させることになったことは私も了解し、この協会の今後の成り行きを見守っていきたいと思います。皆様にも、厚生労働省の摂食障害センターが昨年度くらいから何とか少しずつ動き出していることと併せ、この摂食障害協会についても、様々な情報がそこから発信されていくようになる可能性がありますので、その存在を知っておいていただければと思います。