福島お達者くらぶだより

2014 7 1日発行 通算 72

 

トラウマティック・ストレス学会で

 本年の5月中頃に福島市で「日本トラウマティック・ストレス学会」という精神科医をはじめとする援助専門職者の学術集会が行われました。この学会のメンバーのたくさんの方々は大震災直後から福島に繰り返して入ってくださってきて、福島の状況をよく知っておられる、そのような専門家が大震災・原発事故から3年が経過したところで福島に集まることに意味があったのだと思います。

 私(香山)はその少し前にうっかりと鎖骨を骨折していて腕を動かすのがつらい状況だったもので、福島の状況が集中的に取り上げられた1日目の特別講演などのプログラムを聴きに行く元気を出せなかったのですが、様々なシンポジウムが行われた2日目は、つらくなったらあきらめて帰ることにしようと思いながら、ちょっと頑張って最後まで参加してきました。何しろ12,000円という学会参加費を払って参加するので、その分を少しでも取り返したいというケチな感情と意地もあったのでした。結果としてたくさんのことを勉強でき、またいろいろな人たちと意見交換をできて、参加費に見合うくらいのことを得ることができたかなと思います。

 その2日目のシンポジウムでも福島の状況に関わる話をいくつも聞きました。しかし、私は社会福祉協議会が行う生活支援相談員(仮設や借り上げ住宅を回って避難者の相談・援助に当たる人たち)の連絡会に毎月出席してもっと生々しい話を聞いているので、これに関しては専門職の人たちもそれぞれが関わったところだけで全体を捉え切れていないと、不満が残るものでした。強制避難の人たちは3年以上が経って生活再建へと足を踏み出せている人と、その目途の立たない人の格差が大きくなってきていて、どうすればいいのか見えません(お達者くらぶでのテーマではないですが)。

 

 その「日本トラウマティック・ストレス学会」の一つのシンポジウムで話されたことを皆様にもご紹介したいと思います。「トラウマの観点から見た依存症・発達障害−心と体の痛みの関係を中心に−」という題名のシンポジウムで、シンポジストは3人、脳性麻痺による身体障害を抱えた小児科医でトラウマと脳機能の研究者、当事者研究によってその抱えてきたものを解析して言葉にしてきている自閉性障害の本人、そして薬物を中心に種々の依存症に苦しむ人たちを支えて一緒に過ごしてきたダルク女性ハウスの上岡陽江(かみおか はるえ)さんでした。

 ダルクというのは「Drug Addiction Rehabilitation Center」を略した、薬物依存の人たちが回復するために共同生活をしている施設で、今は全国に40カ所以上の施設が運営されていますが、大部分は男性のための施設で、ダルク女性ハウスなど女性のための施設は少数です。その上岡陽江さんご自身は30歳ころまで薬物とアルコールの依存に苦しみ、それをやっと克服すると40歳過ぎまで摂食障害に苦しんだ方です。(お達者くらぶのメンバーにも薬物依存や別の依存を何とか乗り切った後に摂食障害でお達者くらぶにつながった人がおられます。自分が抱えてきたものを言葉にして乗り切ってきて、今は子どもも生まれて穏やかに暮らしておられます。)

 その上岡陽江さんの「痛い」と書いて「ヒトリ」と読むと題されたお話をぜひ皆様にも紹介したいと思って、シンポジウムの時に配付されたプリント資料に書かれていたことと、お話を基にまとめたことを、紹介したいと思います。である調の断定的な文がプリントに書かれていたこと、〔  〕内の文がそれ以外に話されたことや、聴いていて香山が考えたことです。

 

上岡陽江さんのお話

はじめに・・・

 ダルク女性ハウスを運営して24年が経った。〔福島お達者くらぶが22年、それよりも早くからで、すごく先進的な取り組みだったでしょうから理解してくれる人たちも少なく、苦労もすごく多かったと思います。〕最初の10年は何とか男性モデルのプログラムに乗せようとしたけれど、うまくいかなかった。「頑張れ!?乗り越えろ!?根性見せろ!?」〔と、その男性プログラムでは暗にも明にも言われるのだと思います。〕

 女性の仲間たちは薬をやめたとたんに、体中の痛みに襲われるのだった――頭が痛い、おなかが痛い、からだ中が痛い、ダルい、ツラい・・・。〔ほとんどの人たちにとって、クスリはその痛みを消すために使われる快楽のためなんかじゃない。痛みだけじゃなく、クリーンになるとあらゆる身体の不調が生じる、わけのわからない40度を超す発熱の経験者も多い、クスリはあまり早くやめてはいけないのかもしれない、と言っておられました。〕

〔また、痛みについては、「左が痛い」と言う人がたくさんいるのだそうです。この現象のことを聞いて推察したのは、大脳では右半身を支配する左半球に言語中枢があって論理的思考を司り、左半身を支配する右半球が感情を司る、「左が痛い」のは感情の痛みなのかということです。〕

 

身体感覚と感情の区別がつかない女性たち

 〔女性たちの85%は暴力の被害者で、その人たち、特に性暴力の被害者は〕「不安」で胸がドキドキすると、「楽しく」てカラダが期待でワクワクするのと混同してしまう。カラダが疲れているだけなのに「寂しさ」や「恥ずかしさ」の感情(消え去りたい)と区別がつかない。カラダの「ダルさ」は「死にたい」気持ちと似ていて区別がつかない。〔月経前後に自殺未遂が多いのは、捨てられた記憶と重なるためか、とのことです〕。

 女性らしく生きたい人ほど攻撃的になり暴れるのであった。

〔カラダとの付き合い方、それを獲得していくことが、クスリをやめるのに必要だろうと言っておられました。このあたりは、摂食障害の人たちではどうでしょうか?ぜひ教えてください。〕

 

パニックへの対応法

 今は薬物をやめるより先にパニックにどう対応するのかを一番で教えるようになった。

(1)  キツいものを外す、身体感覚がおかしくて2サイズ小さいものを着ていることが多い

(2)  水を飲む

(3)  静かなところに行く、人によっては暗いところがいい、明るいところがいい人、ヒトリがいい人、人がいたほうがいい人、それは経験から学んでいく

(4)  「今ここに戻るために」日時を確認する、年齢を確認して、嫌いなことはしなくていい、逃げていい、好きなことをしていい、唱える、誰かに連絡する、メール、電話、手紙

(5)  得意なことをする 散歩、料理、裁縫、掃除、園芸、人の話しを聞く、編み物、水泳、イヌの散歩、猫の世話

(6)  そしてこの (1)(5) の方法を試してどうだったかの報告をメンバーにする

〔なるほど、と思います。摂食障害でも共通していて、食べ吐きをやめることよりも前にこのようなことを考えるべきでしょうか。〕

 

大切にしたいこと

 身体ケア、お金の使い方、人間関係(上下関係ではない)、感情をどう扱うか、(感じないのでもなく、イカリを爆発させるのでもなく、泣きながら怒るみたいな)そして新しい体験。

そんなことを今は大切に扱っている。

〔とにかく生き延びろ、たとえ刑務所に入っても、精神病院に入院しても、と最後に強調されました。生き延びるためには依存症になれ、依存症には自助グループなどの社会資源があるから、という逆説的な話もされました。アルコールなどは自助グループもたくさんあるけれど、摂食障害には少ないのが残念ですが、「とにかく生き延びよう」と私もいつも言います。生き延びていれば、生きてて良かったと言えるときが来ます。そんなことは証明のしようがないけれど、そう言ってくれた人たちがお達者くらぶにたくさんいるのです。〕