福島お達者くらぶだより
第61号 2011年 10月 8日 発行
お達者くらぶだより第61号をお届けします。
大震災から半年以上が経ちましたが、皆様は少し落ち着いて暮らせるようになっておられるでしょうか。原発事故については、これ以上の爆発がない限り、直接に生命への危機はないでしょうが、不安をあおるばかりの専門家と称する人たちの発言も、風評被害も、なかなか収まりません。その中でも何とか生き延びていってください。
NABAから義援金をいただきました
その大震災のあと、私たちお達者くらぶが20年近く前の創設ときにモデルにさせていただいた東京のNABAが、付き合いのある宮城・福島のグループなどに送るべく義援金を集めたとのこと、その一部をお達者くらぶにもいただいたことをご報告します。今後の活動のために使わせていただくことにします。NABAの皆様には本当にありがとうございました。
お達者くらぶホームページについて
私たちのホームページは最近まで福島大学のホームページにぶら下がっていました。しかし、大震災の影響でこのホームページの管理がうまくできなくなって、とりあえずヤフーが提供している無料のサーバーに立ち上げ直しました。そのアドレスは
http://www.geocities.jp/fotassya3/
ここには広告が入って目障りですが、このgeocitiesの方が安定して維持できることがわかりましたので、こちらで継続していくことにしました。内容は今までどおり、お達者くらぶやミーティイングの紹介、スタッフからのメッセージ、お達者くらぶだよりのバックナンバーなどです。ぜひ時々開いてみてください。
<重要なお知らせ>
来年1月のミーティングについて
来年1月の第2土曜日(1月14日)は大学入試センター試験のために、医大全体が閉鎖され、ミーティングにいつものゼミナール室が使えません。それでこの日だけは次のように大学外で行います。時間はいつもどおりです。
会場:風の谷 電話024-548-0786
場所は国道4号線の伏拝交差点(旧4号との交差点・郡山方面から来る場合は医大を通り越して最初の信号)を旧4号の蓬莱団地の方に進み、すぐの信号の直後の右側への道を入ったところ、バスなら北谷地(桜台経由ならあさひ台)停留所のすぐ近くです。(コーヒーがおいしい、なかなかしゃれたレストランです。)
2時までに医大(医学部の玄関)に来てもらえれば、車で案内します。2時半くらいまでは誰かが待っているだろうと思います。
本人・家族別の場所を取ることはできず一緒のミーティングになりますし、少し離れた場所にはお達者くらぶではない方たちもお茶をしているかもしれないのですが、それでもよい方はぜひ参加してください。飲み物代は自分持ちになりますが、300円の参加費は無料とします。
久しぶりにお達者だよりを受け取って
健康の母
暑中お見舞い申し上げます。(註:この言葉どおりの頃に受け取りました。)
お達者くらぶからの会報をいただき驚きました。本当にご無沙汰しております。14〜5年前、愚息がお世話になり2度ほど参加いたしました。もう息子も今年で31歳になります。現在は東京で独り暮らしをしていますが、何とか就職もしてちょっとした独身貴族のようです。3/11の震災時には一早く連絡をよこし、宅配が可能になった時は物資を送ってくれました。
拒食症になったときは10年以上かかると言われ覚悟しましたが、お達者くらぶの集まりの時、自分よりひどい症状の人もいて、それから不思議と食べるようになり、高校は一年遅れて登校しましたが、その学校の先生方と合わず他校に編入し、その高校を卒業してしばらく家事手伝いをしていましたが、すぐ下の弟が東京の学校に行くことになったのを機に上京しました。しかし高校の友人たちに助けられ就職も心配なくできて、人生悪いことばかりではないんだと元気づけられました。
東京で暮らしてからも職場の同僚に心を病んでいる人がいると放っておけないようで、類は何とかでそばにいて、いつぞやは自殺未遂で助けたほどでした。性格的にまじめで優しく正義感が強いというのも手伝ったのが巨匠の始まりだったのでしょうけれど、今はまだ喜怒哀楽が若干激しいときもあるようですが、普通の生活ができるようになり、親としては嬉しい限りです。
現在この震災でかなり精神的に病むようになった方もいるかと思います。「がんばれ東北」とか言われますが、そんなに言葉で励まされても辛いところです。津波の片付けはいつになるかもしれないし、原発はどんなところにいても恐怖で、東電などは加害者なのに全く悪いと思っているように見えません。政府にしても政治家も東北をなめてるとしか思えません。怒りはどこにぶつけたらいいのでしょうか!!
久しぶりのお達者くらぶで会員が30歳になったのを読み、お世話になったあの頃を思い出し、近況報告を兼ねペンを取りました。みなさんお元気で。
水島広子先生の講演から (香山雪彦)
ここでは、香山が以前にNABAのフォーラムに呼ばれたときに一緒に呼ばれていた水島広子先生が話されたことを紹介したいと思います。
水島広子先生は非常にアクティブな方で、精神科医として摂食障害を中心的なテーマとして活動しながら、30歳代前半の若さにして衆議院議員を務められました(お父さんも医師でありながら参議院議員をされていたので、政治活動にも興味を持っておられたのだと思いますが、お父さんは自民党だったのに対し、水島広子さんは民主党でした)。政治家としては一貫して女性の生きやすい社会を作ることを目指しておられ、その一貫として結婚しても夫婦別姓を認めるように運動されていました(その民法改正はもうちょっとのところまで行っていたのですが)。男性は職業や業績をきちんと評価してもらえるのに、女性は誰々さんの奥さんという形で評価されることが多いのはおかしい、摂食障害はその矛盾に苦しむことの象徴だと訴えておられました。
その議員を2期務めて辞められた後は、水島広子こころの健康クリニックを開業されました。その治療方法の中心は対人関係療法です。これは対人関係の問題の治療ではなく、対人関係を利用して摂食障害などを治療する方法で、水島さんはこの療法の日本の指導者です。この治療法について知りたい人は、水島さんの著書「拒食症・過食症を対人関係療法で治す」(紀伊國屋書店1680円)を読んでください。なお、クリニックについては患者さんが集まりすぎて、今は新しい人を受け入れていないとのことです。
私は水島さんが書かれた本について質問したいことがあったので、手紙を書いたことがありました。そうしたら、国会議員の活動の忙しい中できちんと返事をくださり、その後、学会でお会いしたりしたのですが、ゆっくり話を聞いたりしたのはNABAの会が初めてでした。
その水島さんが講演された中に、ぜひ皆様に紹介したいと思った言葉がいくつもあったので、記憶に残った言葉をいくつか拾い上げてみたいと思います。
ルールをおびやかされる
誰でも生きていく上で自分のルールを作り上げていきます。特に摂食障害に苦しむ人たちは、何とか生きていくための自分のルールを作って、それをしっかり守ろうとするでしょう(拒食の時はそのルールが守れているからいいのですが、過食はそれが守れないことで非常に苦しくなるのですが)。そのルールを守ろうとする時に非常に困るのは、そのルールとは全く違うルールを持っている人があなたを支配しようとのしかかってくることです。もっとひどいのは、そんなルールがないと見えるくらいに気分次第で変化してしまう人に支配されてしまうことです。
そのようなときにはどうしたらいいでしょうか(ここからは私が考えることも織り込まれています)。その時は、自分が望む結果を出していける新しいルールを作る必要があります。そのためには、どういうときに不安になるのか、そして自分が望むことは何なのかをしっかりと捉えなければなりません。
しかし自分一人ではそれがわからなくて苦しんできているのですから、共感してくれる人の力を借りて、それを一緒に考えてもらうのです。それは決して教えてもらうのではありません。自分でも考えなければなりません。相談を受け、力を貸す方の人間(医師やカウンセラー)も、どうすべきか教えてあげるのではなく、一緒に考える手助けをすることが大事です。そうでないと、その人の本当の力は育ちませんから。
過食はもやもやする気分を解消する手段
気分がもやもやとして、それが自分で整理できないような嫌な気分である場合、あなたはどうしますか。たいてい(自分ではそうしたくないと思っていても)食べ物に手を伸ばしてしまう、そしていったん一かけらでも口に入れたら止まらなくなってしまうでしょう。なぜそうなるかというと、食べるという行動がもやもやした気分を一時的に忘れさせてくれるからです。
もちろん、他にもそれを忘れさせてくれる方法はあります。例えば、アルコールで酩酊することです(もっと早いのは覚醒剤などで、一瞬にして気分が変わります)。ギャンブルや、自分より弱い人をいじめることもできます。買い物だってあります。けど、そんなことをしたら体が壊れてしまいそうだ、あるいはお金を使いすぎたり、警察のやっかいになったりして、お母さんたちを悲しませてしまう、それはいやだ。となると、食べることしかないですね。これが自分も人も傷つけることの一番少なくてすむ手段ですから。
だけど、食べ吐きもやっぱり苦しいから、何とか止めたい、それにはどうしたらいいでしょうか。そのためには、そのもやもやした気分がいつ、そのような状況で起こるのかを理解することが必要です。この理解も自分の力だけでは難しく、人の力を借りて、一緒に探し、整理していくことが大事です。ここでも、上に書いたのと同じように、教えてもらおうとするのではなく、自分でも少し頑張らなくてはなりません。力を借りながら、一緒に探り、どうするかを一緒に考えていくのです。
悩みを聞いたらアドバイスしてあげなければ
これは相談を受ける側の友人や援助職の人たちへの言葉です。
人は誰かから悩みを打ち明けられると、どうしたらいいかアドバイスしてあげなければと思ってしまいます。しかし、アドバイスというのは「現状はよくない」というメッセージであって、相手をを傷つけるものです。さらに、親身に友情を示すようでありながら、その人よりも優位に立っていることを示すことになって、やはり相手の自己評価を下げてよけいに傷つかせることにもなりがちです。だから、悩みを打ち明けられても、アドバイスしようと思わない方がよいのです。ただその苦しさに共感して聞くだけにする方がよいのです。
今の苦しさを脱する方法を教えてもらいたくて来ている人を受け止める医師やカウンセラーなどの援助職の場合でも、このことを意識しておくべきでしょう。アドバイスしてあげる、教えてあげるのではなく、一緒に考えていこうよ、と提案する方がその人の気持ちに添うことになると思います。
さらにはアドバイスして解決方法を示すだけでなく、実際に手を下して解決してあげなければ、と思ってしまう人もいますが、それはしない方がよい場合が多いでしょう(命の危機が迫っているような場合は別でしょうが)。特に相手の人に伝えないまま、陰で工作するようなことは最悪です。「その人のためを思って」と言いながら、その人を支配することになって、その人の力を奪ってしまいます。(えらそうなことを書いていますが、私自身がコントロール欲求のきわめて強い人間で、そのようにして失敗した、それをしっかりと私を責める言葉で伝えてくれた人がいて、やっと勉強できたことです。)
病気にでもならなかったら生きられない
摂食障害を拒食症・過食症(正式の病名は神経性食思不振症・神経性大食症)という「病気」とするのは、拒食・過食(あるいは食べ吐き)という症状があるからです(香山は、それに加えて、病気としておかないと保険が使えないからだと思っています)。その基にある「痩せたい」(それよりも「体重が増えるのが怖い」という人の方が多いでしょうか)という思いに囚われること、それ自体が「症状」です。
この私たちの生きている社会は不安に満ちています。その不安を鋭く見抜き、しかも真剣に受け取る人ほど、生きていくことに苦しみます。それをまともに処理しながら生きようとすると、心も体も壊れてしまうかもしれない、そんなときにこの病気になれば、とりあえず生き延びられます。病気だからと、やらずに済ませられることもあるでしょう。アルコールや薬物に頼ることのように体を根本的に壊してしまわずにすみますし。
だから、香山は食べ吐きはそんな状況の中でも生きようという意思表示だと感じています。拒食だって、死ぬためにしている人はいなくて、生きるためです(誇りを持って生きるためには細い体が必要だと、間違ってすり込まれてしまっているのですが)。病気を利用してでも、生きていきましょうね。生き延びていれば、必ず生きていてよかったと言えるときが来ますから。
香山雪彦から退任・就任のご挨拶
半年遅れになりましたが、定年退職と新しい仕事への就任の挨拶を書かせていただきます。
いざご挨拶をと思うと、さまざまな思いがあふれてしまいます。全く経験したことのない激しい揺れがいつ果てるともなく続くと感じられた地震と、私たちの親しい知り合いも多い地域を襲った想像を絶する津波、そしていつ収束するのか先の見えない原子力発電所事故の問題と、直接の被害をすぐ身近に見ている私たちだけでなく、日本全国が不安に揺れ動く中でも、確実に季節は進行し、春を過ぎて夏も過ぎて秋になりました。その中で、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
その地震直後の激動の3月の末、遠方への避難など苦しみの中にいる人たちがまだまだ多い状況ではありましたが、私の住む福島市では生活が少し落ち着く気配を見せ始めていたところで、私は23年半の長きにわたって勤めた福島県立医科大学(医学部 神経生理学講座 教授)を定年で退職し、4月から新たに福島市にある私立大学、福島学院大学の教授に就任したことをご報告させていただきます。
福島県立医科大学在職中は、いみじくも最終講義の際に学部長に「青年のような体と、少年のような心を持って・・」と紹介されてしまいましたように若気の至りを繰り返したにもかかわらず、たくさんの方々のご支援のおかげで無事に最後まで勤めることができたことをうれしく思っています。
新しい職は社会福祉士と精神保健福祉士の受験資格を得られる福祉学部と、臨床心理士の受験資格を得られる大学院の担当です。大学卒業から今に至る、麻酔科時代の臨床医としての経験、そこから研究中心に転じた神経生理学の知識、そしてこの20年ほど、お達者くらぶを中心に深く関わってきた摂食障害に苦しむ人たちやその家族の方々から教えてもらってきたことがすべて生きる仕事と感じています。さらには、7年前に福島に来てもらった母について勉強せざるを得なかった、認知症とその施設などの社会資源についての知識や介護経験も大きく生きます。
福島学院大学のメインキャンパスは福島市の北の方にあるのですが、大学院などのために町中のビルにも校舎を持っており、私はその福島駅前キャンパスに研究室をもらいました。最初はメインキャンパスに研究室を希望したのですが、その建物が今回の地震で大きく壊れて、急きょ変更になりました。その研究室もやっと整ってきました。この新しい仕事で、今までに得てきたものを若い人たちに伝えていけるように、今少し頑張ってみたいと思います。実際、全く新しく始めた講義がいくつかあって、その準備が少し大変なのですが、頑張ってしっかり準備しておもしろいと思ってもらえる講義に努めています。福島学院大学が主催する公開講座なども積極的に引き受けています。
それとともに、福島県立医大の精神科教授のお計らいによって、精神科の診療にも携わっています。摂食障害を中心に、今までよりも強い責任を持って、心に苦しさを抱えた若い人たちの支援の勉強をしていきたいと思います。
ついでですが、地震後のことを少しご報告させていただきます。「東北」、「福島」が大きなキーワードになりましたから、私のところにたくさんの方々からお見舞いのメイルや手紙や電話をいただきました。その方々にはお伝えさせていただいたのですが、こと私個人に関しては被害はきわめて軽微にすみました。
私も原子力発電所からの放射能汚染には強い不安を持ちましたが、私は科学的に検証された医学のデータを信用していますので、多少の汚染の残っている福島市でもその汚染自体は全く問題にならないことを理解し、落ち着いて暮らしています。しかし、福島県全体でも原子力発電所の直接の周辺とそこから北西に延びた地域以外は全く問題ないところが圧倒的に多いのに、その風評被害と差別が大きな問題となっています。それに関しては、全国メディアは不安をあおるばかりで、腹立たしさを覚えます。皆様には、どうぞ風評に踊らされることなく、実態を冷静に見て、落ち着いて暮らしていただくようお願いいたします。
お達者くらぶは震災後の半年もそれまでどおり変わることなくミーティングを中心に活動してきましたが、これからも変わりなく活動を続け、私も今までどおりに関わっていくつもりです。来年秋にお達者くらぶ創設20周年を迎えるのを機に、ミーティングのあり方などを考えようとしているのですが、それは皆様のニーズによりよく合うようにと考えるためです。それに向かってご意見を寄せていただければと思います。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
福島お達者くらぶ連絡先
お達者くらぶの連絡先は次の通りです。
電話:070-6622-8026(お達者くらぶ専用)
メイル:y-kayama@fmu.ac.jp
郵便:960-8505福島市本町2-10
福島学院大学駅前キャンパス 香山研究室気付
電話は呼び出し音が20秒鳴っても出ないときには留守電(伝言メモ)につながり、「はい、福島お達者くらぶです。今、出られませんので、メッセージをどうぞ。」との音声が流れます。録音可能なメッセージは約15秒以内です。それも、4件までしか録音できません。留守電を聞いて、必要な場合にはこちらから電話しますが、この専用電話はほぼ着信専用なので(この電話からかけられるのはあらかじめ指定した3つの電話番号だけという契約になっています)、別の番号の電話からになります。
何故こんな制限の強い電話をお達者くらぶ事務局として使っているかというと、料金が圧倒的に安いからです。こちらからかけることがないから基本料金だけですが、一月に1000円以下ですんでいます。
連絡はなるべく手紙かメイルでいただけたらと思いますが、お達者くらぶやミーティングについての問い合わせなどは遠慮なく電話してください。初めてで様子がわからない方もどうぞ電話してください。香山は会議や講義で不在になっていることもあるので、一回でつながらなくてもめげずに何度もかけてください。
ただし、個々の問題についての相談には応じられません。それは、全く同じように見える人でも、例えば抱きとめてあげるのか、逆に突き放してただ見守ってあげるのがよいのか、人によっても、その人の時期によっても、全く違った対応が必要になることが多く、それは長い時間をかけて何度も何度もお話を聞かないと判断できないことで、電話では責任ある対応ができないからです。ご理解ください。
お達者くらぶやミーティングについての案内は、様々な情報とともに、ホームページに出ています。アドレス: http://www.geocities.jp/fotassya/
すごくきれいなページですし、メッセージや過去のお達者くらぶだよりなども出ていますので、ぜひ開いてみてください。