福島お達者くらぶだより

 2026 1 1日発行 通算 118

 

明けましておめでとうございます。皆様は、昨年はどのように過ごし、今年はどのようでありたいと思っておられるでしょうか。

 昨年、お達者くらぶのミーティングに発足当時に参加していた人が30年ぶりくらいに顔を出してくれ、その後のことや今の思いなどをゆっくり聴かせてもらいました。当時を知るスタッフは一人だけですが、他のスタッフもたくさんの人たちの思い出を残していますので、以前に参加していた方々も時に当時のことを思い出して顔を出していただければと思います。

 

「やわらかいいのち」−思春期心身症の人たちと私(香山雪彦) 後編

谷川俊太郎:「やわらかいいのち思春期心身症と呼ばれる少年少女たちに」より

 

 どうしたらいいの?と問いかけの言葉で始まる「やわらかいいのち」という谷川俊太郎さんの詩に出会ったのは、私(香山)が過食症に苦しむ若い人に出会って、その人に真剣に向き合うようになった頃でした。

 その人とかかわり始めて、その谷川俊太郎さんの詩がまさにそのとおりに心に響いた、その時の私の姿をその詩を引用しながらしたためたのですが、その前半を前号に掲載した、その後半をこの号に載せます。

 

(前号の続き)

その人の後にも、同じような生きづらさかかえて苦しんでいる若い人たちがたくさんいることが見えるようになりました。その人たちの話すのを聴いていると、アンビヴァレント(両価的)な思いや言葉が投げかけられてきます。それが表情にも表れますし、一人で帰って行くときの寂しげな背中からも痛いほどに伝わります。

怒りながら哀しんでいる

戸惑いながら決意している

突き放しながらしがみついている

ひとつの顔

世界中でたったひとつのあなたの顔

その顔はかくしている

誰にも読みきれない長い物語を

拒みながら待っている

謝りながら責めている

途方に暮れながら主張している

ひとつの背中

かたくなにみずからを守るあなたの背中

その背中は呟いている

自分にもつなげないきれぎれな物語を

その人たちからは何の役にも立てない私には怒りの言葉が投げかけられることもよくあります。しかしそのように私を責めながら(時には怒りに我を忘れるように叫びながら)、その心の中では私に謝ってもいたのを、私は感じていました。「責めながら謝っている」の方がずっと私にはぴったりでした。(そのことをある人に話すと、「いいえ、謝りながら責めているのです」と言われたのですが。)

 

それ以来、私はその人たちの物語を聴かせてもらうようになりました。切れ切れの記憶を何とかつなぎ合わせて、そこまでの人生の物語につないでいくことを手伝っていく、そしてその物語を一緒に紐解いていくことを自分の活動の中心に置くようになったのです。なぜそのような物語の中を生きてくることになったのか、その物語は頭をぐるぐると駆け巡るばかりで身動きできなくなっている人たちに、一人ではそこから抜け出せないから、一緒に考え、整理していこうと働きかけてきました。

しかし、その人たちはその過去の物語にこだわり続けていることが多いのです。得られなかった愛情を何とか取り返そうとするかのように。思い詰まっては家族に(私にも)怒りを爆発させたりもしながら。

どこへ帰ろうというのか

帰るところがあるのかあなたには

あなたはあなたの体にとらえられ

あなたはあなたの心に閉じこめられ

どこへいこうとも

あなたはあなたに帰るしかない

 

その過去の物語を整理する、それによってその物語を抱えながら、どうしたら少しでも楽に生きられるようになっていくのか、そして生き延びていくことができるのかを考えていこう、と私は誘い続けるのです。

過去の物語にこだわって縛られてしまっているところから、一歩踏み出して行こう。不安を抱えたまま変えようのない過去から離れて、未来の方に進んでいこう。このように苦しんでいるのは、その未来を求めているのだから。あなた自身は気づいていなくても、あなたにはその力があるから。

だがあなたの中に

あなたの知らないあなたがいる

あなたの中で海がとどろく

あなたの中で木々が芽ぶく

あなたの中で人々が笑いさざめく

あなたの中で星が爆発する

あなたこそ

あなたの宇宙

あなたのふるさと

 

しかし、踏み出していくその未来は不確定な見えないものだから不安は大きい。その不安にさいなまれて苦しさは続いて、未来は自分で変えていくことができるとは言っても、一人で真っ暗闇の中を歩くのは不可能と思えるでしょう。

しかし、あなたにはちゃんとあなたを理解し、手を携え、一緒に歩いてくれる人がいるから、大丈夫です。実際、こうやって苦しみながら生き延びてきたあなたを、私は大好きなのです。あなたは「信じられない」と言うだろうけれど、もっとたくさんの人や、周りの物事もあなたを支えてくれていることがわかってきます。

あなたは愛される

愛されることから逃れられない

たとえあなたがすべての人を憎むとしても

たとえあなたが人生を憎むとしても

自分自身を憎むとしても

あなたは降りしきる雨に愛される

微風(そよかぜ)にゆれる野花に

えたいの知れぬ恐ろしい夢に

柱のかげのあなたの知らない誰かに愛される

 

だから、生きていきましょうね。生き延びていたら、「生きててよかった」と言える日が来ます。そんなことは証明のしようがないけれど、生き延びてそう言ってくれた人たちがたくさんいるのです。今は何としても、生き延びていきましょうね。あなた自身が苦しんできたのは、その中でも生きようとしてきたからなのだし。その力があるから苦しみながらもここまで生きてきた、その力を信じて。

何故ならあなたはひとつのいのち

どんなに否定しようと思っても

生きようともがきつづけるひとつのいのち

すべての硬く冷たいものの中で

なおにじみ なおあふれ なお流れやまぬ

やわらかいいのちだからだ