≡福島お達者くらぶだより≡
2023年 1月
1日発行 通算 第110号
新しい年が明けました。今年はどんな年になるでしょうか。民族や宗教の対立による戦争が続く世界の情勢は落ち着かないし国内の政治も混乱しているけれど、皆様には新たな気分で迎えられる穏やかな年であるようにと念じます。
なぜ、そんなに痩せたいの?
女性は痩せたいと思っている人たちが多い(多いというより、ほとんどの人たちでしょうか:最近は男性でも)。特に摂食障害の人たちは(拒食症の人たちだけでなく過食症の人たちでも同じように)なぜそんなにも痩せたい、ふつうの人が見ると異常なくらい細い体型を理想に思い描くのでしょうか。天平(てんぴょう)時代の壁画やルノアールの描く女性はふっくらしていますから、この痩せ願望は遺伝子に刻み込まれたものではないです。
肥満は、高血圧・高脂血症・高血糖(=糖尿病)を伴って、死の四重奏といわれたり、メタボリックシンドローム(メタボ)とされるなど、不健康の象徴とされていますから、それが少しは痩せた体への憧れにつながっているかもしれません。しかし、そのような健康志向で拒食につながるような強い痩せ願望を説明できるものではありません。
たぶん、痩せた人を美人とする傾向の強い現代のメディアが創り上げた幻想的文化の影響は大きいのでしょう。ファッション雑誌などに見られる細いモデルたちが痩せ願望を強めていることは確かなようです。「なぜ痩せたいのか」と尋ねると、それが本音なのかどうかはわからないとしても、「お店にある素敵な服が着られるから」と答える人たちがたくさんいるのです。それは先進国ではどの国でも共通しているようです。それゆえヨーロッパには、摂食障害を助長しないように、BMI*がある一定値以下に痩せたモデルを使うことを法律で禁じている国もあります。
【注】*BMI=Body Mass Indexは体重を身長の2乗で割った数値(kg/m2)で、統計的な研究では22くらいが最も長生きしやすく、その数値が高くても低くても寿命が短くなるとされています。
摂食障害といえば拒食症が中心だった1980年代頃には、「成熟拒否」という説が強く唱えられたこともありました。思春期になると女性は(脂肪を沈着させる作用がある女性ホルモンが分泌されることによって)ふっくらとした大人の体になっていきますが、自分が母と同じ大人の女になっていくのを拒否して、少年のようなほっそりした体型のままでいたいと願う、という説です。しかしその後、拒食症よりも過食症の方が多い時代になっていくと、その説にはあてはまらない人たちも多い、と私には感じられます。
ある女性は、「自分は小さい子どもになってお母さんのおなかに帰りたいのだけれど、身長は変えられないから、体重を減らすのだ」と言っていましたが、それで全てを説明できるとは考えられません。なぜそんなに痩せたいのかは別にしても、なにも自由にならない日常の中で、体重だけは自分の意志の支配下にあるという感覚が心の中に大きく存在するのかと思われます。
拒食や食べ吐きによって異常なほどに痩せている人でも、自分はまだ太っていると主張することがよくあります。その言葉が示すように、体型の認知が狂っていることが、痩せた体型を目指す動機になっているのでしょうか。しかし、私には体型認知の狂いが食べることの拒否の原因とは思えません。なぜなら、かつてはそのように主張していても、回復が進むと、「あの頃の自分はおかしかった」と、少しふっくらしてきた(ふつうの体になってきた)自分を受け入れられるようになった人たちをたくさん知っているからです。体型認知の狂いは摂食障害の結果であって、原因ではありません。
いずれにしても、「痩せたい」と思う気持ちそのものが病気なのではなく、そのこだわりの強さが病気だと考えられます。問いかけるべき疑問は、「なぜ痩せたいか」ではなく、「なぜそれほどまでに痩せたい気持ちにとらわれて、生活のバランスが崩れているのか」です。
それでは、そのようなやせ願望にとらわれてふつうに食べて楽に暮らすことが困難になっている拒食症・過食症の人たちはどうすればいいでしょうか。それはここで簡単に述べられることでなく、自分の抱えてきている問題が何なのかをしっかりと眺めながら、勉強していってください。