摂食障害の子を持つ家族の人へのメッセージ
 あなたの子供はなぜ摂食障害に苦しむことになったのでしょう。それを理解して
 あげることは、子供が楽になるだけでなく、また、あなた自身の生き方をも
 もっと楽なものに変えるに違いありません。その理解の鍵になる言葉を載せます。
 私達スタッフの心が凝集した言葉と受け取ってください。 (文責 香山雪彦)




摂食障害の子を持つ家族の人に.その1
 あなたの子供の本当の病気は、人に気をつかうばっかりで自分の気持ちを出せないことです。 拒食・過食といった行動は、その本当の病気やその苦しさを、自分でなぜなのか理解できないで、だから言葉にして出せずに、外に訴えるための症状なのです。そのように症状を出して訴えているのは、彼女(彼)がもう回復への一歩を踏み出していると言えます。けれども、訴えるために症状を出すことは、彼女(彼)をよけいに苦しくもしています。 そして、何よりも苦しいのは、その訴えを受けとめてくれる人がいないことです。彼女(彼)が訴えているものが何であるかを聞き分け、それを受け止めてあげられる存在が必要なのです。            

摂食障害の子を持つ家族の人に.その2
 拒食や過食などの"症状"は、そのように、彼女(彼)がかかえている不安を訴える手段です。 それと同時に、この不安に満ちた毎日を生き延びる手段でもあります。(この二重の意味を理解してあげてください。) 生き延びる手段としての過食などは続けてもかまわないのだと理解してあげてほしい。誰だって生き延びる手段を持っていて、それは、誰かさんがカラオケで歌いまくるのと同じようなものですから。過食してしまっても、その自分を責めずに、これで今日も生き延びられた、まあいいか、と自分に言ってあげられるようになることが、彼女(彼)の回復の一つの目標です。                                        


摂食障害の子を持つ家族の人に.その3
 彼女(彼)は、何故、自分でも説明できない不安をかかえてしまったのでしょう。それは、不安に満ちた現代社会の中で、"安心"を得られるような育ち方の子供時代を送ることができなかったから、あるいは、"安心"を奪われてしまう体験をしたからです。それは彼女(彼)の責任ではないし、彼女(彼)の能力が劣っているためでも、ましてや彼女(彼)がおかしいからでもありません。それどころか、この社会の不安を他の人よりも敏感に感じ取れるすぐれた力を持っているゆえに、そしてそれをごまかさずに誠実に生きようとするゆえに、彼女(彼)は苦しむことになってしまったのです。まずこのことをわかってあげて下さい。              

摂食障害の子を持つ家族の人に.その4
 彼女(彼)は、何故、安心して自分の気持ちを出せなくなったのでしょう。それは、子供のころから、常に緊張を強いられる人間関係の中におかれていたからかもしれません。その人間関係の中で、彼女(彼)はありのままの自分を出しても抱きとめ守ってもらえた経験が十分得られなかったのではないでしょうか。あるいは、自分自身の言葉を出す前に親が先取り先取りしてそれを遮っていた、そんな中で彼女(彼)は自分の心をいつの間にか押し込めていっていた、そんなことはないでしょうか。子供は子供の持ち味で生きさせてやらなければならない。それを、子供の幸せを願ってとは言え、親の理想に押し込めようとしていた、そんなことはないでしょうか。                                                 

摂食障害の子を持つ家族の人に.その5
 彼女(彼)の"症状"には波があります。それは当然なのです。なぜなら、その"症状"は、その時の彼女(彼)にのしかかっているストレスの強さの指標だからです。身のまわりの状況は刻々と変化し、ストレスの程度も変化するのです。"症状"すなわちストレスには波があるのが当たり前で、それは彼女(彼)の意志の強さや、まして価値とはまったく関係ありません。治ったと思っていたのにまた始まってしまった、と、家族の方ががっかりとして、ただでさえ完璧主義者で、やっぱり自分はだめだと落ちこむ彼女(彼)に、さらなるストレスをかけていませんか? ストレスが強いときは過食なんかで乗り切ればいい、それをわかってあげてもらえますか?                                                      

摂食障害の子を持つ家族の人に.その6
 なぜ彼女(彼)は完璧主義者なのでしょう。なぜAll-or-None(全か無か)思考をしてしまうのでしょう。それは、安心を得られない育ち方の中で、自分を認め、ほめてあげられないような性格になってしまったからです。(自己評価が低いと表現します。)本当はよいところ、すぐれたところをいっぱい持っているのに(それは周りには見えているのに)、それが彼女(彼)にはまったく見えないし、そのように言ってくれる人の言葉も信じられません。だから体重とか、試験の成績とか、スポーツの記録といった、数字で出てくるものしか信じられないし、完璧にできないものを認めることができないのです。                              

摂食障害の子を持つ家族の人に.その7
 そんな彼女(彼)の性格は変わらないものでしょうか。性格には、遺伝子で決まってしまう変えられない部分と、生活の中で決まってくる変えられる部分とがあります。自己評価の高さ・低さは変えられる部分に属します。それはまちがいなく変えられます。ただ、「3つ子の魂、百まで」と言われるように、小さい子供のころに比べて、思春期を過ぎると変化は起こりにくくなるので、時間がかかります。時間がかかることは、やむを得ないことと認めて、ゆっくりと待ってあげてください。何年も待つつもりで。                                 

摂食障害の子を持つ家族の人に.その8
 どうしたらその部分の性格を変えていけるでしょうか。それには2つのことが大切です。1つは、人と人との関係には、すべてをさらけ出しても傷つかないですむ、あたたかいつながりもあるのだと教えてあげることです。それを知り、そのつながりの中で"安心"を与えてあげることです。それができるのは、誰よりもあなた方、家族なのです。彼女(彼)が一番そうしてほしいと求めているのも、まちがいなく家族なのです。けっして彼女(彼)を裏切らず、ただただ、彼女(彼)をあたたかく抱きとめてあげてください。(それが本当か必死に試してくることもわかってあげてください。)                                            

摂食障害の子を持つ家族の人に.その9
 もう1つは、彼女(彼)の心の奥深くにあって、彼女(彼)の心を縛っている、きれぎれの想い出を意識のレベルに持ち出してきて、それをつなぎ合わせて一つのストーリーに紡ぎあげて話す(書く)ことです。それによって、それらを整理し直して心のタンスに片付けることができます。(それは忘れるのではありません。忘れると、わけのわからない恐怖に縛られます。)それは誰に話してもよいというものではありません。それを聴くことのできる人にしか話してはいけないのです。お達者くらぶはそのような人がいるところなのですが、家族がそれを聴ける人になってもらえれば、何よりもいいし、彼女(彼)が求めているものもそれです。         

摂食障害の子を持つ家族の人に.その10
 それを話し始めると、あるいは話す代わりに、彼女(彼)は家族を責め、攻撃する時期があるかもしれません。それはつらいけれど、それも必要な時期なのです。ようやく自分を、そんな形だけれど、外に出すことができるようになったのですから。彼女(彼)は、いっぱい素晴らしいところを持っている、可能性もいっぱい持っている人です。彼女(彼)はそれを知らないのだけれど、家族はそれを信じてあげてください。たとえ今はあなたを責めていても。 彼女(彼)とかけ合う合言葉は                                    

Let it be! (そのままのあなたでいいよ)
Take it easy! (気楽にやっていこうよ)

うまく行かないことがあっても、「まあ、いいよ、それでいいよ!」と言ってあげてください。

摂食障害の子を持つ家族の人に.最後に
 子供を拒食・過食に追いこんだことは自分の責任だと、お母さんは自分を責めているかもしれません。しかし、それはまちがいです。誰か一人が悪いのではありません。それに、自分を責めて、子供が幸せになれれば自分はどうなってもよいと考える、それが一番のまちがいです。彼女(彼)はお母さんを不幸にしている自分もまた責めているからです。家族はみんな、それぞれが生き生きと生活し、幸せにならなければならないのです。一人が犠牲になっても何も解決しません。お母さんも自分自身の人生を生きなければならない。まだまだ男社会の中では、お父さんはそれを支えてあげなければならないのです。みんなが幸せになりましょう。彼女(彼)は身をもってそれを訴えているのです。