新型コロナウイルスについての解説(香山雪彦)

 このところの新型コロナウイルスの感染拡大という状況に冷静に対応できるように、この病気の正確な知識を少し解説しておきます。

 この新型コロナウイルスは医学用語ではSARS-CoV-2と名付けられています。数年前に流行したけれど、幸い日本には入って来なくてすんだサーズ(重症急性呼吸器症候群severe acute respiratory syndromeを起こしたウイルスと同じ種類のウイルスとしてこの名前がつきました。このウイルスによる肺炎を中心とした病気はCOVID-19と呼ばれていて、それは2019年に発生したcorona virus diseaseという名前です。

 コロナウイルスはふつうの風邪を起こす病原体として以前から知られていましたが、変異を起こしやすくて、いままでも重症なSARSMERS(マーズ:中東呼吸器症候群)を起こしてきましたが、それらは限局的な流行で抑えられてきました。それがきわめて感染力の強い変異を起こして、世界中に広がってしまったのです(そのような状態をパンデミックpandemicといいます:流行epidemicが広範panに起こっていることを意味します)。

 

 感染はほとんどが呼気中のウイルスによると考えられていて、特に大声で話したり歌ったりしたときの飛沫が危険です。人が集まるときは、その飛沫が飛ぶ距離を空けることを考えるべきです。感染している人と接した可能性があるときは、手で顔(特に口、鼻、目のあたり)を触らないようにすべきです。

 その飛沫はマスクでかなり防げますが、医療用の不織布マスクの効果が高く、ウレタンマスクはそれより効果が少し低く、一般的な布製のマスクは有効性が落ちるようです。いずれの場合でも、ぴっちりと顔に付ける必要があって、あごマスクは全く意味がないのは当然ですが、鼻出しマスクも効果は低いです。(感染病棟で使うN-95マスクは、きちんと装着するとかなり息苦しいです。)

 このウイルスは感染力が強いのですが、一時期かなり心配された接触感染(例えば誰もが触れるドアノブに触れるなど)はあまり強くないと報告されています。だから感染者が出た場所の大がかりな噴霧消毒などは必要ないと考えられています。それでも、感染者の呼気飛沫が付着した可能性のあるテーブルなどはアルコールで拭く必要があります。コロナウイルスは脂肪の膜で包まれているため、アルコール消毒はこの脂肪を溶かすので、有効なのです。

 さらに、石けんも脂肪膜を溶かすので、石けんをつけての手洗いは非常に有効です。手洗いは石けんをつけ、30秒以上時間をかけて手のひらだけでなく手の甲、指先、指間などを十分に洗うと、手のひらと指だけのことが多いアルコール消毒よりもさらに効果があるでしょう。

 

 100年ほど前にパンデミックを起こしたスペイン風邪はインフルエンザウイルスによるものでした。その後、インフルエンザを抑えるための研究が進み、ワクチンの開発と、特効的にウイルスの増殖を抑える薬が開発されて、対応できるようになりました(抗生物質が使える細菌類と違って、ウイルスでこのような特効的な薬があるのはインフルエンザとヘルペスだけです)。

 インフルエンザワクチンは、不活化あるいは弱毒化したウイルスを発生中の鶏卵(有精卵)で増殖させて作ります。しかし、この方法では開発にも製造にも時間がかかるので、SARS-CoV-2に対するワクチンは、このウイルスが細胞に感染するときにまず細胞に付着する突起のタンパク質を作らせる遺伝子を細胞に取り込ませて作らせます(そのため、このワクチンは筋肉内に注入されます−インフルエンザワクチンの場合は皮下注射なのですが)。この遺伝子注入による方法はSARSMERS以来の技術的な研究が進んでいたので、非常に急速に開発が進んだのです。

 世界的に非常に信頼度の高い医学雑誌を読むと、このワクチンの有効性は非常に高いと報告されています。副作用はほとんどが軽いもので、アナフィラキシーのように重篤なものは非常に少なく、起こっても対応可能なので、受けられるようになったら私は受けます。すでに高齢者だし、医療従事者として高齢者に接することも多い仕事なので。